パーマは本当に盛り上がったのか? HEAVENS NAO、DaB 河原木佑弥、nanuk 佐野正人の「パーマモリアゲヨウカイ」が広げるパーマの可能性―soucutsの庭 Vol.11―
デザインやセンスはどう教育する?

内田:レイヤーはだいぶ浸透してきましたよね。ウルフもそうだし。一時期、ウルフとパーマの組み合わせが定番というか、すごい量産されていたじゃないですか。僕の中では、ウルフとパーマの組み合わせがパーマブームの火付け役というイメージもあります。
そんなふうに、ドライかウェットか、カットベースはどうするかなど、いろいろな考え方がありますよね。でも、それでも正解と不正解はあるんじゃないかと思うんです。何でもいいわけではないですよね。例えば、nanuk的な質感にしても、本当にこれはダメだというものと、寝癖っぽくて可愛いというものの間には、線引きがあると思うんです。そういう感覚って、どうやって教育するんですか?
今、うちのサロンでも起きているのが、「わざとウェイトを低くしているんです」とか「わざとドライな質感にしているんです」とか。あえて野暮ったくすることもOKで、それが可愛いとされる世界観がある。でも、その中にも、これはハズレだというものがあるはずじゃないですか。デザインやセンスの部分も、そこに付随するテクニックの部分も多様化しているからこそ、教えるのが難しくなっているんじゃないかと思っていて。皆さんは、そういう部分をどうやって教育しているんでしょうか?
NAO:僕は最近、横から見たときのシルエットを意識するんですよね。横から見て、フロントは軽く、バックサイドはウェイトを重くする。どちらかというと、マッシュに近い量感の調整を意識しています。そのときに重要なのがレングスです。例えば鎖骨より上の長さだと、そのウェイトの持ってき方は野暮ったく見えるけど、鎖骨より下になると、その量感が生きてくることもある。正面だけじゃなくて、全体を8つに分けて、重くするところと軽くするところを考えたり、上下に分けて捉えたりする。そういうふうに考えると、比較的伝えやすいと思います。

内田:それは黄金比というか、HEAVENS的な型があるんですか?
NAO:ないっすね。スタイリストによって、それぞれバランスの考え方が違ったりするので。誰に教わっているかにもよるんですけど、どちらかというとサロンワークの中で身につけてほしい領域ではあるかもしれないです。
内田:見て盗め、みたいな。そうなってきますよね。
河原木: うちは結構、教育型ですね。社長が型を作るのが好きなので、「まとめなさい」って言われます。さっきの質問にもありましたけど、最初は複雑になっていくものだと思っているんです。複雑にならないと、新しいものは生まれないから。そこから僕は、要素を削ぎ落として、突き詰めて「これだ」というところまで整理してから、バズらせるようにしています。だから、ブリーチパーマもバズらせる前に、めちゃくちゃ仕込む段階があったんですよ、1年くらいかけて。「これはまだバズらせちゃいけない。お客さまが来たら困る」っていう時期があって、自分の中でまだ黄金比ができていない状態だと、あたためておくんです。
だから、ちゃんと教えられる状態になってからバズらせるようにしています。サロンの悪評が広まるのは嫌なので、流行らせたスタイルはほかのスタッフもできるようにしておかないと、と思っているからです。
うちのカリキュラムでは、ボリュームコントロールや、ダメージレベルに合わせた薬剤の選び方、「こういう履歴のお客さまが来たら、今はこれを使ってください」といったことまで、理論をはっきりとさせています。その間も、みんなで「パーマラボ」で地道に毛束を使った検証をして、新しいものを探している感じですね。
カットベースやバランスの取り方については、よく「DaBっぽい」と言われるんですけど、正直、自分ではよくわからなくて。月1回の勉強会をずっとやっていて、「これはいい」「これはよくない」とはっきり言うので、その中でバランス感覚が身についていくのかなと思います。
内田:じゃあ、河原木さんたちがイニシアチブを持って、「これはよくない」ということをはっきり提示するんですね。

河原木: そうっすね。でも、僕だけがやっているわけではなくて。イズムの濃いスタッフが結構いるので、「これはいい」「これはよくない」という判断の感覚が共有されているんです。だから僕じゃない人が言っても、同じように「それは違うよ」って言うと思います。
内田:共有する文化があるんですね。
河原木:教えながら、一緒に共有していく感じはありますね、うちは。
内田:巻き方にもある程度の型があって、アシスタントも巻けるようになっているんですか?
河原木:時代に応じてベーシックは更新されていて、それがすぐ使えるようにまとめてくれているスタッフがいるんです。だから意外と、ずっと同じことを教えているわけではないですね。
内田:俺は一番nanukが気になるんだけど(笑)。あのセンスやバランスを、どうやって教えているんだろうって。でも、nanukもよく勉強会をしているイメージがあります。そういう場で共有している感じなんですか?

佐野:いいところは共有しますね。スタイリストのレッスンというか、共有会みたいなものは、DaBがやっているのを見てうちもやろうよって始まりました。ただ、うちは「これは可愛くない」とは言わないですね。僕自身は「好きじゃない」と言うようにしているんですけど。「こういうほうが好きかな」みたいな表現で。
うちはスタイリストになったら結構自由にさせているので。時間をかけて最終的に自分のスタイルにたどり着く人もいれば、売れることを目指して、わかりやすいデザインで攻めていくのもいいと思っています。ただ、人と同じことをやっているより、少し違和感のあるデザインをやっているスタイリストのほうが、楽しんで仕事をしているように見えるんですよね。
よくないと思うのは、技術が足りないのに、それを認めないことです。こうしたいという意思があるのに、技術が追いついていない場合は、一緒にコピーカットをしてみると重さの捉え方や作り方で大体わかるじゃないですか。「この子は軽さのつけ方があまり得意じゃないな」とか。その子が軽さについて話していても、今の段階では、もしかしたら単純に技術が足りないだけなんじゃないの、という話はします。「本当はどうしたかったの?」って。でもそういう話は、なるべく本人の考えを尊重しながら、という感じですね。
内田:勉強会の時は、コピーカットをやるんですか?
佐野:いや。今は回ごとに店長クラスの子がお題を決めていますね。コピーカットの時もあれば、プレゼンの時もあるし。
河原木:パーマは必須なんですか?
佐野:いや、基本的にカットでやってます。パーマは、そのスタイリングでどう取り入れるのか、みたいな話はする。
内田:むしろ俺が学ぼうという姿勢で勉強会に出てるんですね。
佐野:ですね。「ああ、そうするんだ。そことそこ、繋がないんだ」とか。面白いなあと思って見てますね。
内田:特にパーマスタイルって、仕上げのテクスチャーとか、最後の髪の動かし方に一番センスでるのかなっていうのは思ってるんですけど、そういうのはどう教えてます?
佐野:そこはもう経験じゃないですかね。撮影について行って見て覚える。いろんなスタイリストの撮影についてきてるほうが上手いですよね。引き出しがあるというか。
NAO:それこそ、この会によく参加している若手スタッフ。すごく成長を感じたりとか、逆に学ぶこともあったりとかしますよね。
内田:では、せっかくなのでここからは若手スタッフにも登場していただきましょうか。
(この後は、お三方の一押し若手スタッフも交えて、パーマやサロンの未来についてなど、熱いトークを展開。詳しくはPodcastで!)
パーマを一緒に盛り上げていきたい

内田:それでは、最後にメッセージをお願いします!
NAO:そんなに何かを言える立場でもないんですけど、パーマモリアゲヨウカイの活動を通して、よりパーマに魅力を感じてもらえたら、それだけで嬉しいなって思います。僕らもこれから活動を続けていくので、パーマを通して、皆さんの活躍の場を少しでも広げていけたらと思っています。ありがとうございました!

河原木:パーマモリアゲヨウカイを通して、全国の美容師さんの中でも、本質的にカットやデザインを大事にしている人たちとつながることができました。改めて美容師という仕事っていいなと思いますし、教える立場でありながら、逆に自分が得ているものもあるなと、毎回感じています。
各地に、小さなパーマモリアゲヨウカイのような集まりも生まれてきています。こうしたつながりがまとまってきたときに、本当に盛り上がってきたなと実感できるんじゃないかと思っています。

横のつながりには、今もバチバチと競い合っている関係もあって、それはそれでいいと思うんです。でも、僕らのように、同じジャンルでも違う畑で育ってきた人間同士は、共感こそし合っても、決して同じものにはならない。それが形になっているのも面白いところなんです。全国各地で聞いてくださっている方がいるとしたら、必ずしも手を取り合う必要はないので、「なんかちょっとやってみようか」くらいの気持ちで発起人になってみてください。自由に「パーマモリアゲヨウカイ」の名前を使ってもらってもいいですし。そうやって各地で小さなムーブメントが起きていけば、本当にパーマが盛り上がっていくんじゃないでしょうか。地方でも可愛い、かっこいいスタイルが生まれてほしい。そんな思いで僕らも始めたので、これからも一緒に盛り上げていけたら嬉しいです。
佐野: この後に、あまりいいことは言えないんですけど(笑)。このチームはお二人が立ち上げてくれて、僕はそこに参加する形なんですけど、サロンの垣根を越えて、何でも話せるし、わからないことがあれば聞ける。そういう関係って、なかなかないと思うんですよね。過去のインスタライブを見てもらえれば、すごい知識や業界の歴史、パーマブックに匹敵するくらいの情報量やテクニックに触れられますし、若手の考え方について話している回もあります。そういう話を聞くことで、また新しい考え方が生まれてくると思うんです。

今は誰でも発信できる時代ですけど、だからこそ、発信しても埋もれてしまうことがあります。でも、発信し続けることで、そこから本当に盛り上がっていくタイミングが生まれるんじゃないかなと思っています。僕らは、パーマ比率を上げたいという理由で活動を始めたわけではありません。お客さまにもっとデザインを楽しんでもらいたいし、今までできなかったデザインも、パーマがあることで実現できる。パーマがあるからこそ、もっと短いスタイルも楽しめる。そういう可能性を広げたいんです。お客さまのためにも、自分自身のためにも、美容師としての楽しみ方の一つとしてパーマに挑戦してみたいと思った方は、ぜひ僕らのアカウントを見てもらって、一緒に勉強できたら嬉しいです。それが、本当の意味で業界を盛り上げることにつながるんじゃないかなと思います。
内田: これからも、さらにパーマを盛り上げていこうということで。皆さん、ありがとうございました!

左から:佐野さん、NAOさん、内田さん、河原木さん
NAO(ナオ)
HEAVENS トップスタイリスト/ディレクター
「ツーセクションカット」を軸に、トレンドや季節感、お客様の気分に合わせた似合わせスタイルを提案。代表の小松敦氏から受け継いだ高いカット技術をベースに、扱いやすさとデザイン性を両立したパーマスタイルを得意とする。パーマ技術の講師としても活躍し、髪への負担を抑える薬剤選定や技術のアップデートにも力を注ぐ。2012年にはTBC STYLE SHOOTS CONTESTでグランプリを受賞。パーマモリアゲヨウカイ発起人。
Instagram:@heavens_nao
DaB MUUT ディレクター/マネージャー
河原木佑弥(かわらぎゆうや)
2007年にDaBに入社。長年に渡り代官山店の店長、ディレクターを務め、サロンワークの傍らセミナー講師としても活躍。2014年、2016年にはJHA NEW COMER OF THE YEARのファイナリストにノミネートされる。2024年12月には、初めてディレクションを手がける新ブランド「DaB MUUT」を代官山にオープン。ナチュラルからストリート、モードまで幅広いデザインを提案し、世代を問わず支持を集める。パーマやカラーの技術講師としても活動し、再現性とデザイン性を兼ね備えたヘアスタイルを追求している。
Instagram:@kawaragi_dab
nanuk代表
佐野正人(さのまさひと)
2014年、東京・渋谷にnanukを立ち上げる。「自分らしさを、楽しむ」をコンセプトに、独創的な「New Standard」を追求し、ファッションやライフスタイルを豊かにするヘアデザインを提案。抜け感や似合わせ、その人らしさを大切にしたパーマデザインを得意とし、ナチュラルでカジュアルなスタイルから、柔らかなウェーブスタイルまで幅広く手がける。サロンワークに加え、セミナー講師としても活動し、パーマの魅力を広める取り組みにも力を注いでいる。
Instagram:@sano_nanuk
内田聡一郎(うちだそういちろう)
LECO代表/soucutsの庭ホスト
2003年より原宿のサロンでトップディレクターとしてサロンワークをはじめ、一般誌、業界誌、セミナー、ヘアショー、著名人のヘアメイク、商品開発など様々な分野で活躍。2018年 渋谷にLECOをオープン、2020年 セカンドブランドQUQUを、2025年には別ブランドとしてØØnをオープン。現在渋谷1丁目に5店舗を展開。代表として今後一層の活躍が期待されている。著書「自分の見つけ方」(2013年)、「内田流+αカット」(2017年)、「内田本」(2018年)を発売。また、シザーやシザーケースなどのオリジナルプロダクトも発売中。
Instagram:@soucut
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(文/富樫聡美 撮影/菊池麻美)