「好きを貫くだけでいいの?」クリエイティブの本質とは? kakimoto arms小林知弘、in chealsea照屋寛倖、utuwa黒須光雄、li高木貴雄とLECO内田聡一郎の白熱議論-soucutsの庭 Vol.5-
クリエイティブは、エゴでいいのか

内田:コンテストの話もそうなんですけど、よくあるじゃないですか。「自分がよければいいよね」みたいな考え方。それってサロンワークでも同じだと思っていて。結果が出ていないのに、「自分はこれが好きなんで」って言ってるのって、ある意味、一番逃げだなって思っちゃうんですよね。
もちろん、自分が好きなものを作ることは大事なんだけど、それを大衆が見て、「いいね」って評価してくれて、結果につながって、初めて意味が生まれるものなんじゃないかって。俺は結構そう思うタイプなんですけど……二人はどう?
高木:今、めちゃくちゃグサッときました。
内田:アンチHANG OUTの思想かな? 高木さん、リスナーは知らないから説明してあげて、HANG OUTのこと。
高木:僕ら、“HANGOUT”っていうイベントをやらせてもらっていて。根本にあるのは、「レアキャラになる」っていうコンセプトなんです。業界の中で“一目置かれる存在”になるためには何が必要なのかという。あと、そのために自分たちが広げていかなきゃいけないことって何なんだろうという問題提起をしていて。
その上で、「美容師人生をもっと楽しむために、自分たちに何ができるか」を考えた結果、クリエイションの必要性や面白さを広めていこう、っていうのが活動の根本にあります。
僕らって、“好きなものをやり続ける”ことをすごく大事にしているんですよ。まさに絶賛それをやっている側で。でも、その一方で、まだ大きな評価には届いていないっていうのが、今のリアルでもあるんですよね。

内田:たとえば、自社のスタッフが、自分とは全然違う“好き”を突き詰めていた場合ってどうします?自分の美学とは違う方向に進んでいく危険性って、ありませんか?
黒須:僕は全然OKですね。さっきクリエイションの話もありましたけど、その人が尖らせたい部分を、ちゃんと尖らせていくのがクリエイションだと思っているので。その人の“好き”が、僕の“好き”と違うのは当たり前にあると思うんですよ。もちろん、会社として共有したいマインドや理念みたいなものはあります。そこはある程度揃えたい。でも、デザインや感性、好きなものに関しては、全然違っていていいんじゃないかなと思っています。
内田:たとえば小林さんだったら、kakimoto armsって、教育のカルチャーがしっかりあるじゃないですか。その中で、全然違う思想を持ったスタッフが、自分の道を突き進んでいくことに対して、不安を感じたことってあります?
小林:いや、全然ないですね。たぶん30代とか40代前半くらいまでは、自分の思想とか、「これが正しい」って思うことを相手にも求めていましたし、「もっとこうしたほうがいい」と強く言っていた時期もありました。でも、50歳になって、一周回ったというか(笑)。今は、なんか子どもを見ている感覚に近いというか。「もう、好きにやったらいいんだな」って思うようになって。むしろ逆に、「あ、自分にはそんな発想ないな」って感じることのほうが多いんですよ。「これ、教えてもらったほうがいいかも」って思ったり。たとえば、若い子がパパッとアレンジしているのを見て、「自分ならそんなふうに髪を動かさないな」って驚くこともあるし。だから今は、一周回って“勉強したい”っていう感覚のほうが強いですね。もちろん、自分の軸や技術はある。でも、それとうまく融合できたら一番いいんじゃないかなって。今はそんなふうに考えています。
内田:この話、もう少し深掘りしたいんですけど。この前、山下浩二(Double代表)さんと対談したんですよ。そのときに、「山下さんやDoubleの強さってなんなんだろう」って考えたんです。
で、思ったのが、山下さんって今でも「自分が一番うまい」「自分が一番センスある」って、ちゃんと言えるんですよね。それって、ブランドを長年つくり続けていく上で、大事なことなんじゃないかなって。逆に、自分にはもうわからないから、若い子に任せようとか、自分には理解できないけど、多様性として認めようってなった瞬間から、ブランドって少しずつ崩れていく気がしていて。その“多様性”と、“ブランドを守り抜く思想”を天秤にかけたときに、やっぱりDoubleってすごいなと思うんですよ。今でも石原さんや高田さんみたいな人たちが、山下さんをリスペクトしている。さらに、山下さんは「俺のほうがうまい」って言い切れるわけじゃないですか。65歳で、ですよ。
だから、さっきの話にもつながるんですけど、「好きなものをやっていいよ」ってなったときに、自分が理解できないものって、結局教えられないじゃないですか。本人は、「あなたにはわかりませんよね。でも自分はこれが好きです」って言う。それを認め続けた先に、一体何が残るんだろうっていう。すごく難しい問題だなって思うんですよね。

小林:ベーシックは、やっぱりベーシックなんですよね。髪の扱い方とか、コーミングとか、ブロッキングの捉え方とか。「髪ってこう動くよね」みたいな根本の部分って、絶対に変わらないんですよ。だって相手は“髪の毛”だから。だから、そこに関しては、自分の経験値も含めて徹底的に叩き込みます。あとは、お客さまを迎えるときのマインドもそうですね。kakimoto armsとして、「こうやってお客さまをもてなそうよ」っていう絶対的な軸はある。
でも、最終的なデザインというか、「何をその人が“いい”と思うか」のジャッジに関しては、自分がその人のお客さまを担当するわけじゃないので。そこはもう、その人らしさなのかなって思う。
内田:でも、そこで結局、何を指標にするのかってなったら、美容師って“数字”になっちゃうじゃないですか。「これが自分の好きです」って言っていても、お客さんが来ない。業界誌からも声がかからない。そういう状態って、どうなんだろうって。
それって、ある意味“教育を放棄している”ことにもならないのかなって思うんですよね。二人がHANGOUTをやっているのも、結局は「好きなことをやろう」っていうだけじゃなくて、その先まで用意しなきゃいけないってことだと思うんです。HANGOUTで“好き”を見つけました。でも、それがちゃんと世の中に届くのか。仕事になるのか。評価されるのか。そこまで見なきゃいけないんじゃないかって。
逆説的に言えば、世の中にリーチするからこそ、その人の文脈が認知されて、「あ、この人いいよね」って評価され始める部分ってあるじゃないですか。お笑いもそうだと思うんですよ。M-1を獲ったことで、「この人たちの漫才って面白いんだ」って、より広く認知される。でも一方で、ずっと決勝に行けない人たちもいる。それでも、「自分たちはこれが面白い」ってやり続ける中で、時には芸風を変えたり、コンビを変えたりするわけじゃないですか。その“結果が出ない”という現実と、どう向き合うかっていう話でもあると思うんです。だから俺、「好きだったらいいよね」っていう言葉が、ある種クリエイティブを殺している部分もあるんじゃないかなって、結構思うんですよね。
高木:いや、もう真っ向から対峙してる話ですね(笑)。でも、本当にその通りだなって思います。
内田:解散だ、HANGOUT(笑)。お疲れ様でした(笑)。
照屋:でも僕も、「好きを貫け」って言葉、たまに言うんですよ。実際、その言葉自体はすごく好きなんです。ただ、一方で、すごく“都合のいい言葉”にもなり得るなって思っていて。だって、「自分が好きなことをやる」って、場合によっては“自分に負荷をかけない”ことでもあるじゃないですか。そうじゃなくて、あえて広いマスに届くところを狙いに行くとか、自分に負荷をかけて挑戦していくことも大事なんじゃないかなって。だから僕は、そういう意味でもJHAを狙っている部分があるかもしれないですね。

内田:今回の大テーマ、まさにそこですよね。これって、長年みんながあえて触れてこなかった“禁断の領域”だと思うんですよ。「好きを貫け」って言いながら、内心では「いや、お前の“好き”は違うだろ」って思ってること、あるじゃないですか(笑)。たとえば照屋塾に来た、純粋な受講生が「僕これ好きなんです!」って作品を持ってきたとして。でも内心、「いやいや、それレベル低いよ」って感じること、あるわけでしょう?そのとき、「好きなんで貫きます!」って言われたら、どう返すんですか?
照屋:いや……うーん(笑)。「ちょ、ちょっと待って」ってなることは、実際ありますよ。「僕これ好きなんです!」って持って来られても、「いや、これってどうなんだろう?」って思うことはある。君自身は好きかもしれない。でも、世の中の人がこれを見て、「いいね」って思うのかな?っていう視点は、やっぱりあるんですよね。そこは、すごく難しいです。