「“今っぽい”を作れる、すごいおじさん」枠の2人。vacilando細井豊×PIX HAIR白神裕己が語る、美容師の表現論-soucutsの庭 Vol.6-

2人のキャラクターは戦略?

 

 

内田:(笑)。なんだろうな。空気を読むとか、そういうことができる人は結構いると思うんですよ。でも、相手の懐に入って、ちょっとチャラける感じというか。その要素を同時に持っている人って意外と少ない気がしていて。それって二人のキャラクターとして元々あるものなのか、それとも意図的に、戦略としてやってきた部分があるのか。どうなんですか?

 

白神:僕は……結構戦略的にやってきました。

 

細井:マジで!? 怖いんだけど(笑)。

 

白神:いや、だって僕、普通に見たらヤバい人じゃないですか(笑)。怖そうとか、近寄りがたいとか。でも実際はこういうキャラじゃないですか。だから僕は、ギャップで勝負するしかないと思ったんですよ。ずっと言ってるんですけど、東京のイケメン美容師には普通にやっても勝てないなって。だったら、そもそもこういう見た目なんだから、それを活かそうと思って。

田舎によくいるじゃないですか、やたら他人のオカンに可愛がられるヤンキー。

ああいう感じでいこうって思ったんです。だから僕は、結構意識してやってますよ。サロンワークの時とプライベートでは全然違いますもん。

 

細井:今はプライベート?

 

白神:今は半々くらいです。いや、細井さんと一緒にいる時は結構これが普通なんですけど、一人でいる時なんて全然喋らないですよ。

 

細井:一人でいる時は誰も喋んないだろ(笑)。

 

内田:いいね、このやり取り(笑)。エンジンかかってきた。助かるわ(笑)。

 

 

白神:でも本当にそんな感じですよ。岡山だと年配の方も多いんですけど、僕、意外とすごく可愛がられるタイプなんですよね。

 

内田:結構グイグイいくというか、よく喋る?

 

白神:喋りますね。でも、空気も割と読める方だと思うんですよ。

「あ、この人ちょっと危ないな」とか、「ここは踏み込まない方がいいな」とかは、結構早い段階で察知できるので。そういう時はちゃんと一歩引けるし、逆に攻めていいところはめちゃくちゃ攻めます。

東京に出る時も、「そういう距離感はちゃんと気をつけた方がいいよ」って言われていたんですよ。だから最初は意識していたんですけど、意外と今のところ岡山と同じやり方でも何とかなっていて。案外、突っ込めるんですよね。この人は突っ込んで大丈夫、この人はやめておこう、みたいなのも何となく分かるし。ほら、いるじゃないですか。

同じことを言っても許される人と許されない人って。極端な話、下ネタを言っても許される人と、そうじゃない人がいるじゃないですか(笑)。僕はどっちかというと許される方だと思うんですよ。細井さんもそうじゃないですか?

 

内田:俺は、多分ダメだからね(笑)。ずるいよね。ちょけるくせに上手いっていうのがずるい。ちゃんと技術を磨いてきているくせに、ちょけてるし。しかも、さっきは「時代性なんて気にしてない」って言ってましたけど、絶妙なタイミングで「あ、これはもう違うな」とか、「次はこっちだな」って切り替えていると思うんですよ。その温度感が絶妙で、しかも早い。今、二人のことを真似している美容師ってたくさんいると思うんです。

写真の見せ方とか、髪の質感の作り方とか。「二人がやってるからこれが可愛いんだ」って。実際、セミナーに来ている人たちもやっているじゃないですか。

でも、そうやって周りが真似し始めた頃には、二人はもう少しずつずらし始めているというか。「もうこれはやらないよ」とか、「次はこの質感だよ」とか。ちゃんと計算してやっているように見えるんですよ。ちょけてるくせに(笑)。

 

飽きたから、次へいく

 

 

細井:多分、飽きてるんですよ。本当に1カ月単位くらいで、髪の切り方とかスタイリングの仕方を変えるんですけど、何かを狙って変えているというより、「ちょっとこの感じ飽きたな」っていう感覚の方が近いですね。僕の中にファッションのサイクルみたいなものがあって。「今はこういう気分だから、重めのフォルムのショートにしよう」とか。「だったら質感はこれがいいな」とか。そういう感じです。だから、何かを狙ってやっているわけではないですね。

 

内田:単純にファッションだったり、たまたま何かを見て「あ、これ可愛いな」って思って、自然とそっちに寄っていく感じ?

 

細井:そうですね。「この質感を作るなら、カットはこうかな」みたいな感じで切り方を変えていくんです。それで、「あ、これハマったな」ってなったら、その期間が始まるというか。

 

白神:僕も単純に、自分が飽きちゃうんですよね。お客さんにも「またこれ?」って言っちゃう(笑)。

 

内田:今って、世の中にごまんと「白神構図」(※白神さんがInstagramで発信するサロンスタイル写真の構図や質感表現を指す通称)があふれてるじゃないですか。あの構図、あの質感、あの画角みたいな。白神さんが最初に発信して、それをみんなが真似している。

でも、なんとなくそれも、もうやらなくなりそうな予感があるじゃないですか。

 

 

白神:いや、本当にそうなんですよ。それも外の人に言われて初めて気づいたんです。それこそ、ウッチーさんとご飯に行った時にも言われて。「そうなんかな?」と思って見てみたら、確かにそうかもしれないなって。だから多少は意識するようになったんですけど。

ただ、僕自身はセミナーでそういうことを(サロンスタイル写真の構図や質感表現)結構伝えているんですよね。なので、みんなが使ってくれていること自体はすごくありがたいなと思っています。見やすいとか、表現しやすいとか、そういう理由で使ってもらえているなら嬉しいですし。

そもそも僕、セミナーの内容って、どちらかというとスタッフ教育の延長で作っているんですよ。スタッフに何かを教えた時にうまく伝わらなかったこととか、エラーが起きたこととかを、「どうしたらもっと分かりやすく伝えられるんだろう?」って考えて作っていて。うちの岡山の店舗(コーヒースタンドとセレクトショップを併設)って、美容師じゃないスタッフも全然いるんです。

だから、そういう子たちにも理解できるくらい、わかりやすくしたらどうなるんだろうと思って、セミナーの内容を組み立てたんですよね。

僕、こんな感じですけど(笑)、セミナーでは意外と1時間くらい座学するんですよ。

 

内田:そうみたいだね。結構理論的だって聞くし。

 

「抜け感」を言語化する

 

 

白神:そうですね。美容師って、カットやカラー、パーマみたいなロジカルな部分はしっかり学ぶじゃないですか。でも今って、SNSだったり業界誌だったり、自分で表現して集客することが当たり前の時代になっている。なのに、その表現の部分になると急に投げっぱなしだなって思ったんですよ。みんな結構ふわっとしたことしか言わない。

だから感度の良い人はできるんですけど、それって教育できないのかなって思ったんです。そこで、自分なりにやっていることを可視化して、言語化してみようと。それが正しいかどうかはわからないですけど、自分がやっていることを整理してセミナーにしたら、すごく反応が良かったんですよね。しかも、言語化することで自分自身も改めて理解できるじゃないですか。だから、伝わりやすいし、分かりやすいから、みなさんやってくれているのかなと思います。

 

内田:どういうことを言語化するんですか?

 

白神:例えば髪型って、僕らは切る時は立体で考えているじゃないですか。でも、最終的に表現するのは写真なんですよね。つまり二次元になる。じゃあ、その時にアウトラインってどこでできているのか分かりますか、とか。あとは「抜け感」ってよく言うじゃないですか。でも、その抜け感をどう説明するのか、とか。

 

内田:難しいっすね……。

 

白神:ですよね。だから僕は、それを全部可視化して言語化した資料を作っているんです。例えば、抜け感ひとつとっても、フォルムに対する抜け感なのか、面に対する抜け感なのかで全然違う。そもそも「抜け感」って、いろんなところで作れるんですよ。

スタイリングでも作れるし、メイクでも作れる。じゃあ、その抜け感って何なのか。そういうことを資料にまとめてセミナーで話しています。僕、感度が低くても、理解力がなくても、そういうテキストと説明書があれば、基本的にはできると思うんですよ。それを実際にうちのスタッフにやってみたんです。そしたら全員できるようになった。

だから、「これめちゃくちゃ良いじゃん」って思って。それでセミナーでもやるようになったんです。でも、細井さんに言わせると「やりすぎだよ」って(笑)。

 

 

細井:僕、その資料見たんですよ。シラ君のオンラインサロンでも公開しているので。正直、「こんなに抜け感の説明っている……?」って思うくらい細かい(笑)。でも見たら、「ああ、なるほどね」っていうレベルでちゃんと整理されているんですよ。すごいよね。

 

白神:でも多分、わかっている人はみんな自然にやってるんですよ。ただ、それを言葉にして教えられる人は意外と少ない。僕自身も、これまで出会ってきた美容師さんの中で、そこまで説明してくれた人ってほとんどいなかったんです。わからない人は、そもそも「抜け感」自体が何なのか分からない。だから、それをちゃんと言葉にしようと思ったんですよね。それを見て、さらにあの構図で撮ってくれる人が多いのはありがたいです。

でも、まあ……確かに僕もちょっと飽きてはいます(笑)。

 

内田:細井から見ても、その言語化された内容って、「ああ、確かにそうだな」って感じるんですか?

 

細井:ああ、確かになあって思いますね。

 

内田:どういうことを言語化しているのか全然想像がつかないんですよ。毛がここに来てるからこうで、みたいな話?

 

白神:例えば「抜け感」って、やり方を間違えるとただ髪を汚くする行為なんですよ。最後に「抜け感を出したいからちょっと崩します」って言うじゃないですか。でも、わかって崩している人と、わからず崩している人がいるんです。わからない人は、そもそも何が抜け感なのか分かっていない。だから、こういう順番で、とかそういうところから説明するんですよ。

 

内田:崩し方にも順番があるってこと?

 

白神:あります。順番もあるし、どこをどう動かすのかもあるし、「ここから先は動かしちゃダメ」みたいなラインもある。ただ、それもあくまで僕自身がやってきたことの解説なんですよね。違う表現をしている人からしたら、また別の考え方があると思う。僕は今、自分なりのやり方を言語化して伝えているっていう感じです。

 

内田:それって、さっき話していたアンチクリエイティブみたいな考え方ともつながるの?クリエイティブ畑の人たちが、ただひたすら精巧なものを作って、「結局、それって上手い人の模倣だよね」ということを繰り返していく。それを経てたどり着いたのが今の考え、みたいな。

 

 

白神:いや、むしろ僕はクリエイティブをやっていたからこそわかったんですよ。

クリエイティブをやる時も、僕はずっと「わかりやすいものを作ろう」と思っていました。例えばJHAに出していた頃も、まず目に留まらなければ意味がないと思っていたので。だから今やっていることも、全部その延長線上なんです。あの経験があったからこそできている。

なので、意外かもしれないですけど、僕は全然アンチクリエイティブじゃないですよ。

ただ――これ言うと危ないかな(笑)。クリエイティブそのものが嫌いなわけじゃないんです。でも、クリエイティブをやっている人の中には、「人を表現する」じゃなくて、「モノを作る」ことに意識が向いている人もいるように感じるんです。本来、美容師って女性像や男性像があって、その「人」のヘアメイクをしているじゃないですか。

その上で、ビューティーとして一つの画を作ってる。僕はそれが美容師やヘアメイクの創作だと思っているんです。でも、どこかでそれを履き違えているケースもあるなって。

なんというか、人ではなく作品そのものを作っているというか。陶芸家みたいな感じで、

似合わせもクソもなくなってしまっているような。

僕はそう感じることが増えてきたので、そういう作り方はやめたんですよね。僕は立ちコンじゃなくて、フォトコンを中心にやっていたので、フォトの世界ではそう感じることが多かったんです。

ただ逆に言うと、創作を本気でやってきた人が少し視点を変えれば、多分、今僕がやっていることってめっちゃ簡単なんですよ。

 

>絶妙なラインに立つ2人

 

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