「“今っぽい”を作れる、すごいおじさん」枠の2人。vacilando細井豊×PIX HAIR白神裕己が語る、美容師の表現論-soucutsの庭 Vol.6-
絶妙なラインに立つ2人

内田:その視点のずらしが、今の白神裕己を生んだってことなんだ。
白神: それしかないと思います。ただ、昔は創作をやっている人たちとばかり仲が良かったんですよ。話していて思ったのは、もうね、頭が固い。プライドが高い。もちろん、それが悪いことだとは思わないんです。でも我は強いし、「自分が作りたいものはこれだから、これ!」って引かない。
細井: 誰の話?(笑)
内田: これ、カットしないよ(笑)。
白神: いやいや(笑)。僕、e’pineをオープンした頃に、岡山のローカルコンテストに出たんですよ。出てほしいって言われて出場したら、グランプリを取っちゃって。そうしたら、急に出てきたよくわからないやつが優勝したわけじゃないですか。いろんな大人たちが話しかけてくれるようになったんです。でも僕、その人たちのこと全然知らないし(笑)。
当時、ヘアメイクの友達から、「上下関係はあるかもしれないけど、作品に関しては思ったことをちゃんと言った方がいい」って言われていたんですよ。だからそのいろんな大人たちの作品を見て、「めっちゃダサいっすね」って普通に言っちゃったんです(笑)。そしたら2カ月くらいでみんないなくなりました(笑)。
そこからヤバい人って思われてるんですよ。で、気づけば10年以上、ずっと浮き続けてる、岡山で(笑)。
内田: その頃は、今とは全然違うバイブスで作品を作っていたの?
白神:全然違います。僕、そもそも作品を作りたくて美容室を始めたんですよ。ヘアメイクさんに憧れていたんです。周りにもファッション業界のヘアメイクの友達が多かったので。雑誌とか広告とか、そういう表現の世界にすごく憧れていました。だから当時はカメラも自分で撮っていましたし、「いつかそういう仕事がしたい」ってずっと思っていましたね。
ただ、コンテストに関しては明確な目標があったんです。JHAで受賞して名前を売ること。僕は最終的にニューカマー部門で優秀賞をいただいたんですけど、それが一つの目標でした。それから業界誌の表紙もやりたかった。セミナーもやりたかった。
でも、それが思ったより早く実現しちゃったんですよ。JHAで結果も出た。業界誌のカバーもできた。セミナーもできた。そうしたら急に冷めちゃって。「あれ、できちゃったな」って。やり切った感があったんですよね。
それでピザ屋を始めました。でも実は、ピザ屋を始めるずっと前から言っていたんですよ。e’pineをオープンして1年くらいの頃に、Instagramで「いつかピザ屋をやりたい。そのためにまず有名になる」って投稿していて。だから振り返ると、ちゃんと宣言したことをやってるんですよね。

内田:細井は特にさ、HEAVENSという母体の中で育ってきて、コンテストもやってきたし、いわゆる古き良き正統派の流れをしっかり通って今があるじゃないですか。その上で、今ここに着地しているのがすごく面白い。俺自身は、自分の作っているものって結構「業界っぽいもの」だと思っているんですよ。でも二人って、どちらかというとヘアメイク的な発想や表現が先にあって、そこからサロンワークに寄せてきている感じがする。
その違いって何なんだろうなって。さっき白神くんが言っていたように、「JHAをやっていた人が視点をずらしたらこうなるのか」というと、俺はそうはならない気がするんですよ。もっと動かし方が固くなるというか。固くて、スタイルの旨味を作るポイントを求めちゃうというか。俺自身がまさにそうなんですけど。逆にもっと下の世代だと、今度はただ汚い、まだ。その絶妙なラインに二人がいる気がするんですよ。
細井のスタイルを見ていても、あえてバサバサっとした質感を作っているのに、「わかるな」ってところでちゃんと止まっている。俺から見てもそうだし、若い子が見てもそうだと思う。
細井:それで言うと、結構ちゃんとカットで狙っている部分はあるかもしれないですね。
僕、スタイリングしなくてもいい、ドライヤーでガーッと乾かした時が、一番いい雰囲気になるように狙ってます。それは昔から変わらなくて。撮影をしている時も、無理やり奥の毛を引っ張り出さないと動きが出ないことってあるじゃないですか。そういう時は、そのまま撮るんじゃなくて、一回カットに戻るんです。「動きが悪いな」とか、「ここに厚みが残っているな」とか。見直してから撮影する。それをずっと徹底していました。
だから僕の場合、撮影のための撮影じゃなくて、カットが上手くなるための撮影をずっとやってきたっていうのはあるかもしれないですね。
内田:俺、HEAVENSのスタッフとも仲良いじゃない。みんな口を揃えて言うんですよ。
「あいつは、人としては問題あるけど、カットは本当に上手い」って(笑)。
細井:誰が言ってるんですか(笑)。
白神:でも本当にカット上手いっすよ。思ってる以上に。
細井:いや、思ってるよ(笑)。

白神:細井さん、本当にカット上手いっすよね。僕、一緒にオンラインサロン用の動画を撮ったじゃないですか。あの時に初めて、「この人、ヘラヘラしてるだけじゃないんだ」って思いました(笑)。本当にちゃんと上手い。しかも、細井さんって全部にちゃんと理由があるじゃないですか。僕は意外と、そこまでじゃなかったんですよ。表現に関してはあれだけ考えているけど、細井さんはそれと同じくらい、カットについて考えている。
そこがすごいなと思いました。
細井:カットレッスンをやっていると、話が深くなりすぎちゃうんですよ。たまにアシスタントがポカーンとしてるので、「この先はもっと深い時間にやろう」ってなったりします(笑)。
でも、自分なりに一度ちゃんと紐解いたことはあるんですよね。僕、建築とか植物とか、そういうものの成り立ちを見るのが好きなんです。結局、全部に何かしら自然の摂理があって、その形になっていたり、そう動いていたりするじゃないですか。だから、自分の手で何かを作る時も、その構造をちゃんと理解した上で作れる人でありたいと思うんです。
どんなデザインを見ていても、「なんでこれは美しく見えるんだろう」「なんでこのバランスが気持ちいいんだろう」って、考えるのが好きなんですよ。今でもそうです。見ていて、「もう少しこうしたいな」とか、「ここはこうなっているから綺麗なんだな」とか。
そういうことをずっと考えていますね。
内田:それって、教える時はどうするんですか?
細井:スタイリストになるまでは、そこまで難しい話はしないですね。まずはガチガチにベーシックです。うちは基本のウィッグを5パターンくらいやっていて、7〜8カ月くらいかけます。
内田:まずはベーシックをしっかり教え込んで、できるようになったら崩していく感じなんだ。
細井:そうですね。ベーシックを教える時に、ついでに「ベーシック崩し」みたいなことも教えるんですよ。例えば、「このベースをこう変えると、営業中に俺が切っているあのスタイルになるよ」みたいな。だから、まったく新しいものとして教えるというより、
「今やっているベーシックの変形なんだよ」という感覚ですね。その考え方を理解してもらった上で、そこからフリースタイルに入っていく感じです。
この後はリスナーからの質問コーナーへ。「2人の手はなぜそんなの気持ち良いのか?」「モデル選びのコツやポイントは?」「30歳、スタイリスト5年目で売れるために何をすべきか?」などなどで議論は白熱。さらにサロンスタッフも乱入し、会場は大盛り上がり!カット、教育、クリエイティブ、そして二人の意外な素顔まで――。
続きはぜひPodcast本編でお楽しみください。
内田:だいぶ時間も経ったので、最後にお二人から、自社のことでも美容業界全体のことでもいいので、こんな風にしていきたいとか、聞いている若い美容師さんたちへのメッセージをいただいて終わりにしようかな。
美容師の仕事を長く楽しむために、自分なりのビジョンを描いてほしい
細井:今って本当に、美容師の売れ方もいろいろあるし、「バズる」みたいなこともありますよね。でも、いっときの流行って、結局はいっときなもので終わってしまうと思うんです。僕自身は、美容師という仕事を長く楽しめて、長く付き合えるお客さまがたくさんいる方が楽しいと思っていて。そのためには技術力を含めて、いろんな面で成長し続けなきゃいけない。だから、何か一つだけじゃなくて、いろんなことができる美容師の方が長く活躍できるし、楽しく仕事を続けられるんじゃないかなと思います。目の前のことももちろん大事だけど、それより、「1年後はこうなっていたい」「3年後はこうなっていたい」と、自分なりのビジョンを描いて設計していくことが大事なんじゃないかなと。僕自身もずっとそういう感覚でやってきたので、そんなふうに美容師人生を考えてもらえたらうれしいですね。
地方の美容師にも、もっと可能性を感じてほしい

白神:僕はずっと言っているんですけど、「美容業界をこうしたい」とか、「岡山の美容業界を変えたい」とか、そういうことを思って動いたことがないんですよね。
でも逆に、そういう大きな目的を持たずにやってきたからこそ、ちょっとトリッキーな動きができたり、面白い人たちが集まってきたりしたのかなとも思っています。だから今後も、そのスタンスは変わらないと思いますし、今日みたいに、僕らみたいなちょっと変わったチームを面白がって使ってくれる人たちと一緒に何かできる、何でも屋みたいな存在でいたいなと思っています。
あと、ちょっと角の立つ言い方かもしれないけれど、僕はクリエイティブもやってきたし、今はサロンスタイルを中心に発信していて。両方を経験して、両方のジャンルの美容師さんと普通に話せる人って意外と少ないと思うんです。だからこそ言えるのは、僕はクリエイティブに意味がないと思ったことが一度もないということです。
クリエイティブを経験した人にしかできない表現やデザインは絶対にあるし、結局は考え方の違いだけなんですよね。考え方を少し変えるだけで、表現の仕方はいくらでも変えられる。
もしクリエイティブをやってきた人の中に、「もっとサロンスタイル寄りの発信がしたい」と思っている人がいるなら、それも考え方次第でできることだと思っています。
それと、僕は基本的に地方の美容師なので、東京に来て改めて感じたこともあります。
地方だと、「環境がいいから売れている」とか、「そういうお客さんが来るから可愛いデザインが作れる」と思われがちなんですけど、全然そんなことないんですよ。
むしろ競争は激しいし、上手い人ばかり。その中で支持されている人には、やっぱりちゃんと理由がある。そこを理解した上で、それでも地方から発信できることはたくさんあると思うんです。
僕自身、今は東京と地方の両方で活動しているからこそ、地方の美容師さんたちにももっと可能性を感じてほしいし、地方の美容業界がもっと盛り上がってくれたらうれしいなと思っています。
内田:二人がこんなに真面目に美容の話をすることって、なかなかないよね(笑)。
かなり貴重な回だったんじゃないですか。こんなに直球で美容について語る二人を聞ける機会って、そうそうないと思います。今日はありがとうございました!
プロフィール

左から細井さん、内田さん、白神さん
細井豊
vacilando/代表
1984年生まれ。福岡県出身。大村美容専門学校卒業。上京し大手サロンに就職するも1年足らずで退職。フリーターを経て美容師に復帰し、HEAVENS OMOTESANDOへ。ディレクターなどの要職を経て、vacilandoの代表に。2026年に独立。骨格・髪質に加え、空気感や気分まで捉えて似合わせる。期待感を生むデザイン力が強みに、サロンワークを中心に、雑誌の撮影、ヘアショー、セミナー活動でも活躍中。カミカリスマ3つ星。
Instagram:@hosoiyutapo
白神裕己(しらかみゆうき)
e’pine/PIX HAIR 代表
1988年生まれ、岡山県出身。大阪ベルェベル美容専門学校卒業。岡山県内1店舗を経て2012年岡山市にepineをオープン。2016年JHAニューカマーオブザイヤー優秀新人賞ほか受賞多数。22年同市にサロン、セレクトショップ、コーヒースタンドが入った複合型ショップCueをオープン。2025年には中目黒にギャラリー、カフェ、オフィス、ヘアサロン業種が同じフロアに広がる複合施設PIX(ピクス)をオープンし、業界内外から注目を集める。
Instagram:@yuki.shirakami
内田聡一郎(うちだそういちろう)
LECO代表
soucutsの庭ホスト
2003年より原宿のサロンでトップディレクターとしてサロンワークをはじめ、一般誌、業界誌、セミナー、ヘアショー、著名人のヘアメイク、商品開発など様々な分野で活躍。2018年 渋谷にLECOをオープン、2020年 セカンドブランドQUQUを、2025年には別ブランドとしてØØnをオープン。
現在渋谷1丁目に5店舗を展開。
代表として今後一層の活躍が期待されている。著書「自分の見つけ方」(2013年)、「内田流+αカット」(2017年)、「内田本」(2018年)を発売。また、シザーやシザーケースなどのオリジナルプロダクトも発売中。Instagram:@soucut
(文/富樫聡美 撮影/安島英良)