「まだ東京で消耗してるの?」SHIGE薫森正義×TWO柳亜矢子と考える、脱・東京の是非−soucutsの庭Vol.9−
薫森さんが、京都移住を決断した理由

内田:なんで東京を出たかをもっと深掘りしたいんだけど、一旦、薫森さんの変遷を。
薫森:そんなに話すことないんだけど(笑)。もともとは滋賀県出身の田舎育ちで。ものがないところって、やっぱりオシャレができないじゃん。だから、とにかく都会に出たいっていう思いがあって、まずは大阪の美容学校に行ったのかな。そこからオシャレへの関心がどんどん強くなって、ファッション誌とかを見るようになって。そうすると、やっぱり東京が何でも最先端でいいなって。それで卒業して東京に出て、何店舗かで働いたんだけど、東京にいたのは全部で30年くらい。それから京都にお店を移しました。
東京では、もうやり切った感があったというか。自分の未来が想像できるようになっちゃったんですよね。「このままいったら、こうなんだろうな」って、なんとなくわかった瞬間に、逆に不安になってきちゃった。そのタイミングで、父親が亡くなったことが大きかったんだよね。実家がガタガタするじゃん。その頃、自分は一人暮らしだったし、多少の余裕もあった。「なんか助けたいな」って、漠然と思ったことから移住を考えるようになりました。実家には、居心地のいい場所であってほしいから。何か力になれないかなと思って。年に1回とか帰省するでしょ。そうすると、みんな楽しそうにしてくれるわけよ。「じゃあ、俺が近くに行こうかな」みたいな気持ちになって。潤滑油じゃないけど、そういう存在になれたらいいなって。移住を考えたのは、それがきっかけかな。
柳さんみたいに東京と鎌倉だったら、お客さまもまだ通える距離ではあるんだけど、京都となると難しいかなとは思った。でも、そこはしっかり準備していけば大丈夫かなって。それで、京都にお店を出したって感じですね。
内田:京都は、なんでなんですか?
薫森:なんかね、本当は滋賀でもいいかなと思ったんだけど……。
内田:滋賀が実家ですもんね。
薫森:でも、ちょっと滋賀だとね……まだ、そこに腹を括れる自信がなかった(笑)。とにかく人がいないじゃん、田舎だから。京都だったら、なんとかなるかなって。滋賀からも近いし、1時間くらいで行けるから。
内田:人口比率的に、ちょっと大きいところにしようかなと。
薫森:そうそうそう。だからって大阪だと実家も遠いし、東京の感じとそこまで変わらないじゃん。だったら、やっぱり滋賀に近いところでってことで京都。京都は、もともと文化がしっかり根付いている街だし、そういう意味でもいいなと思った。でも、実際にお店を出すとなると大変だった……。結果、良かったけどね。
山奥に引っ込みたいわけではない

内田:二人とも共通して、全く縁のない土地に住んだということですよね。実際に住み始めて、違和感みたいなものは特に感じなかったですか?
薫森:俺は関西出身だから、そこはなかったな。友達もいたし。
柳:薫森さん、シティ好きですか?
薫森:大好き。
柳:私も、すっごい田舎より、ちょっとシティのほうが好きだから。それでいうと、鎌倉は東京から離れているけど、ちゃんと街があって。京都もそうだと思うんですけど、こだわりのある人たちがお店をやっていたりとか、そこにまた文化があるので。そういう意味では、あんまり抵抗はなかったですね。
薫森:そう。山奥に行きたいわけではない。
柳:シティがやっぱり便利だから。
内田:しかも、ちゃんと文化が育っているという。
柳:そうなんですよ。それでいうと、同じ神奈川でも相模原……。相模原の人に失礼だな(笑)。うちの地元だと、またちょっと違うのかな?って思っちゃったんですよね。
薫森:田舎が好きっていうわけじゃなくて。東京って、なんかね、汚いものも多いのよ。汚いものっていうか、例えば建物にしてもそうだけど、どんどん壊して新しいものをつくる。新しいことを生み出すことに価値があるっていう街。その中で、自分の中でも価値観が決まってきちゃったの。「これが美しい」とか、「これが嫌いだ」とか。東京って、嫌いなものもすごい目に入ってくるの。それが嫌だった。もちろん、新しいものを生み出すことがいいっていうのもわかる。でも、文化や昔からあったものを、こだわりを持ちながら続けていくっていうことも、すごく素晴らしいことだと思ったから。地方のほうが、そういうものが根付いているよね。それはすごくいいなって思った。
内田:柳さんは鎌倉に住んでいて、現状は代官山まで勤務しているじゃないですか。
(※柳さんがまだ鎌倉にTWOをオープンする前、Sraw在籍時の収録です)。鎌倉から代官山への通勤は、何年くらい続けているんですか?

柳:5年かな? その前に表参道が2年か。
内田:その働き方に関しては、あえてそうしようと?
柳:鎌倉に引っ越した最初の頃は、体力的にちょっとビビっちゃって。「ああ、もう鎌倉にお店をやろう!」って思った時期もあったんですよ。通うのが大変すぎて。だから、2019年に一度独立しようと思ったんです。でも、だんだん通うことにも慣れてきて。「まだいけるな」って思って。もしあの時独立していたら、どんどんちっちゃくなって、ひっそりやっていたと思うんですけど(笑)。その後、Srawを社内のブランドとしてやらせてもらえたことで、「あ、まだ私、体力的にいけるな」って思っちゃったんですよね。
でも、そろそろ今後のことを考えると、仕事場と住まいが近いほうが、長い目で見たときに楽だなって思ったんですよね。
薫森:続けられるってことだよね。
内田:TWOというお店のオープンをアナウンスしたばかりだと思うんですけど。東京から、あえて住んでいる場所に仕事の拠点を移そうと思ったのは、物理的な距離以外に何か理由ってあったんですか?
柳:うーん……ほぼ距離感かな。鎌倉って、すごく素敵な場所だと思うし、住んでいて好きなんですけど。でも、鎌倉に自分を寄せたいわけではないというか。東京のエッセンスが自分の中に必ずある状態で、お店を出したいんです。場所は変わるけど、私は変わらないよ、みたいな。
薫森:それはあるよね。
内田:薫森さんも、そんな感じしますもんね。
薫森:自分の中で、ある程度できてきたと思ったから、場所はもうどこでもいいと思ったわけ。だから、滋賀でもいいけど、一応、まあ京都のほうがいいかなって。うちらはお客さんあっての商売だから京都にしたけど、今考えたら、どこでもいいかなって思っちゃう。
京都に行って輝く薫森さん

柳:でも薫森さん、絶対に京都に行ってからのほうがのびのびしてますよね。
薫森:そりゃあ、そうよ!(笑)
柳:美容師とライフスタイルのバランスがいい気がする。
薫森:長い休みを取ったりとか、昔はできなかったじゃん。でもね、そんなに長く休みたいとは、実は思ってなくて。本当は働きたいんだけど、それだと今までと変わらないじゃん。一人だからこそできる働き方をやってみると、普通の美容師さんにはわからないことがわかるんだなとか、新しい発見があるとか、価値観が変わるとか。そういう経験をすると、「一人でやった意味があるな」って思えるんですよ。
じゃないと、ただ辛いのよ。体力的にも辛いし、朝から掃除するのも一人だし。大変だからこそ、一人でやっている利点を自分自身が感じながら、「また新しい側面が見えてくるかな」とか、そういうことを考えていかないと、一人でやる意味がない。ただストレスから逃れたいとか、そういう気持ちでやっていると、ダラダラする。それはね、今日めっちゃ言いたいなって。
内田:確かに。一人でやってる人、結構増えてきましたからね。
柳:だって、全国の美容室の平均人数、1.4人とかでしょう? 地方とかに行けば行くほど1人。私のお客さんでも、一人で美容室やってるっていう方、結構来るし。
内田:確かにね。鎌倉でもそういうお店いっぱいありますしね。
柳:もう、どこでもいっぱいありますよね。東京の一等地にそういうスタイルは難しいかもだけど、ちょっと郊外に行けばね。
内田:仕事自体のスタンスも変わったと思うんですよ。1対1になってくると。
薫森:そうだねえ…。一番変わったのは、自分のペースだよね。逆に、きっちり決められている。前だったら、お客さまが遅刻したり、何かあったりしても対応できるじゃん。でも、それがまずできないから。いろんなことをきっちり決めなきゃいけなくなっちゃった。お客さまには申し訳ないんだけど、協力してもらわないと、こっちが大変になっちゃうでしょ。こっちが大変になると、やっぱり「ああ、辛い」ってなっちゃうから良くない。でも、とにかく時間をかけて1対1でやると、前より失敗しないんですよ。
内田:全部、自分ですしね。
薫森:前は人に任せて失敗することもあって。ダントツにクオリティは上がってるかな。そういう意味では、やっていて楽しいよね。単純に、自分の思う通りにできる。
内田:しかも、自分の完全に好きなインテリアに囲まれてね。僕も遊びに行きましたけど。
薫森:ちっちゃいけどね。あれくらいがいいかな。