「まだ東京で消耗してるの?」SHIGE薫森正義×TWO柳亜矢子と考える、脱・東京の是非−soucutsの庭Vol.9−
脱・東京で得たもの

内田:改めて、東京から脱出した時に得たものってなんですか?
薫森:フットワークの軽さ、しがらみのなさ。
柳:あ、そうかも!
薫森:思い入れがないし、知り合いも少ない中で、本当にやりたいことをすぐやれる。ダメだったらダメで、すぐやめれるっていう。自分がチャレンジしたいことのスピード感がどんどん出てる。物理的にはゆったりしてるんだよ。ゆったりしてるんだけど、やりたいことがどんどん出てきて、それが全部できるっていうのが、圧倒的にいい。
内田:薫森さんみてると、京都でもすごい友達増えてますもんね。
薫森:そうなの。
内田:この年齢になってきて、新しい友達ってあんまりできないですもんね。
薫森:なんでかっていうと、俺のその人たちへのリスペクトがすごいの。みんなこだわりが強いから。みんな京都のことを怖いっていうし、一見さんお断り的な人も多いじゃん。
でも、それって、自分の基準を大切にしていて、お客さまに合わせないってことなのね。ある意味、こだわり。それを貫いて、長いことずっとやっている。「すごいな」って思うし、俺が目指すところはそこだなって思う。
内田:前に行ったとき、ご飯に連れていってくださったお店も、そんな感じしますよね。
薫森:そうそう!言っちゃ悪いけど、東京にそういうお店って意外とない。やっぱり、回転数とか売り上げとかを重視するから、こだわりが薄めだと思う。圧倒的に違うのは、地方は固定費がかかってないから。その割に値段がそこまで変わらないじゃん。ご飯とかもそうだけど。そうなると、ゆとりができる。そんなにガツガツしなくてもいい。美容院もそうなんだけどね。東京って、生きていくためにすごく働かなくちゃいけないんだなって感じる。そっちが優先になっちゃってるのが、もう全然違う。
柳:鎌倉は高いから、そんなにのんびりできないかも(笑)。私はね、鎌倉に住んでるけど、今のところ都内に通っているので、鎌倉コミュニティが全然できてないんですよ。でも、そんなにないほうが気楽っていうか。知り合いとかがそんなにいなくても、気楽なので。東京に住んでいるときよりも、家から少し歩いただけで素敵なお店があって、自然があって。それで十分。私、旅行とか行くのが好きなんですけど、それって、自分のスイッチの切り替えなんですよ。ところで薫森さんも、ちょっとせっかち気味ですよね?
薫森:(笑)
柳:私もね、せっかちなので、頭の中で次々にいろんなことを考えちゃうタイプで。仕事で問題とかがあったりすると、ずっとそのことが頭の中をぐるぐるしちゃう。だから、旅行とか、環境を変えることが、強制的なスイッチの切り替えみたいになっていて。鎌倉から代官山までの通勤時間は、その間に映画を観たり、音楽を聴いたり。休みの日は、東京の景色とはまた違うものがあるっていうことが、自分のリフレッシュになっているんです。切り替えができるという意味では、いい環境だなと思っています。
薫森:でも、これからは東京を離れるじゃん?

柳:そうなんですよ。でも、東京って東京にしかないものがあるから。京都もそうだけど、鎌倉も個人の素敵なお店とかたくさんあるんですけど、やっぱり東京に行かないと見られないものってあるじゃないですか。展示とか。東京って、絶対的に「東京」みたいなところがあるから、自分の中から完全になくすわけではないんだろうなって思う。
休みの日に東京に出てこられる距離感なので、「あ、ちょっと鈍ってきたな」と思ったら東京に行って、また何か感じたらいいのかなあと。
内田:薫森さんも、ちょいちょい東京来ますもんね?
薫森:それはやっぱりね、美術館とか展示って、圧倒的に東京だから。それは狙って行くようにしてる。でも、俺は基本的に、地方に行ったから鈍るっていうのはあんまりないかも。周りを意識しなくなるから、自分の好きなことを突き詰めるっていうことが、よりできるのね。でも、もう少し刺激が欲しいなっていうときは行くけど。鈍るっていうより、ゆっくりにはなるかな。人の多さには慣れなくなったね。でも、やりたいようにやれるっていうのは、いいことだなって思うけどね。
内田:東京でまだやるっていうことも、全然肯定派って感じなんですか?
薫森:俺自身の話だと、俺はない、全く。これからも。
柳:SNSが進化して、コロナも明けて、東京と地方の格差がなくなった気がするんですよ。東京が良くないとも思わないし、逆に遠くに離れたとしても、できることはいっぱいあるんじゃないかなって。
薫森:まさにそれかも。だから、疲弊して、消費されて、自分が自分じゃなくなるんだったら、そういうものに影響されないところに行って、本当にやりたいことをやっているほうが、その子の能力は伸びるんじゃないかな。
柳:地元で試したいという人は戻ってもいいし、それは悪いことじゃない。東京でいろいろ感じたいなと思う人は、東京でいいと思うしね。
内田:キャリア20年、30年近くになってきたときに、ある種、人生の折り返し地点というか、「コーナーを曲がったな」っていう感覚があるから。セカンドライフ的なことでいくと、一番わかりやすいのが移住ってことなんですかね。
薫森:本当にこれでいいのかな、とか。人生100年って言われるけど、ちゃんと仕事できるのって60過ぎとか? 70も難しいかもしれないじゃん。そう考えたら、残り少ないっていう認識になる。そうなったら、やりたいことがバーッとリストアップされている中で、「これはやらなきゃ」っていうものの一つかも、俺は。
仕事だけじゃなくて、昔から海外に留学したいと思っていたんだけど、東京にいたらできないなと。でも、地方で一人でやったら可能になることって、リストがバーッと上がってくるじゃん。そうしたら、限られた時間の中でやっていこうって思う。だから、せっかちって言われるのかな(笑)
柳:いやー、でも、そういう取捨選択じゃないですけど、考えますよね。
内田:海外行くんですよね? 今度。

薫森:7月から行くんだよ。3カ月。3カ月で英語がペラペラになるとは思ってないけど、ただ、今よりは絶対にコミュニケーションが取りやすくなるじゃん。移住をきっかけに「場所はどこでもいいんだな」って思っちゃって。だから、海外もありなんだなって視野を広げて。そのほうが選択肢が増えるじゃん、将来の。選択肢を増やしておかないと、東京にいるだけだと「東京でしか生きていけない」っていうことになっちゃう。
今だったら、もともと東京にもコミュニティがあるし、京都にもできた。そこに世界のいろんな場所でつながりができたら、将来、本当に仕事どうしようかなって思ったときに、「あ、やっぱり海外にしようかな」とか。選択肢をつくるための今の活動、っていうのもある。
内田:向こうで髪も切ったりするんですか?
薫森:それはビザ的にできないから。でも、お友達を切ったりとか、ルームメイトとかはやろうと思って。
内田:それができるのが、フットワークの軽さってことですよね。
薫森:そう! それが一人サロンの良さかもしれない。俺は迷っている人のいいお手本というか、「こういう感じの美容師もありだし、楽しくできるんだ」っていうのを見せたいな。ただ遊びたいだけじゃなくて、美容師を突き詰めるためにとか、より魅力的な美容師になるためにやってるんだよ、っていうのを伝えていきたい。なんかね、移住したからって、引っ込むって感じじゃない。新たな美容師の働き方の一つとして、お手本になりたい。
内田:薫森さんは、京都に行ってから、すごい魅力的になった。
薫森:うそ! 嬉しい!
内田:前がどうって話じゃないんですけど、すごい素敵な大人って感じ。
薫森:うっちーに言われたら嬉しくない?
内田:発信も、明らかに一人になってからより発信するようになったじゃないですか。一人になったからこそ、発信を心がけていたんだと思うんですけど。それによる影響力って、かなりあるんじゃないかなと思うんですよ。
薫森:俺が発信するのって、誰かに向けてというより、「自分ってこういう感覚で美容師をしています」という感じで。それに共感できる人だけでいいかなって思っていて。美容師さんにも、一般の人にも見てもらって、共感してもらいたい。でも向こうに合わせるというよりは、「自分の感覚はこうですよ、今」っていうものを発信して、それに共感してくれる人を、仲間みたいな感じで増やしていければ住んでいる場所に関係なく、いろんなことができるじゃない。
柳:私も、「共感力」とか「共鳴力」みたいなものはすごくわかる。
SNSは、どう向き合うべきか

内田:薫森さんを見てたらさ、本当に普通に「俺が行きたいな」って思うんですよ。この人に切ってもらいたいなって。
薫森:みんなやっぱり、ヘアスタイルを載せようとするじゃん。でも、そのヘアスタイルをつくるための背景とか、みんなそれぞれに気持ちがあるわけでしょ。「こういう思いでやっています」っていうことが大事であって、「ボブが上手に切れるからいいでしょ」って、それだけで切ってもらいたいって人は、今はいないと思う。この仕事を一生やっていくなら、何かしら思いがないと、価値が出ない。自分自身に価値をつけていかないと。
柳:私は SNSって美容師さんに向けてというよりは、一般の人が「これを見て髪を切りに行きたいな」って思うきっかけになったらいいなと思っていて。自分の「好き」を突き詰めて、「私はこういうのが好きです」「こういうものを見ています」「こういうものを食べるのが好きです」「こういうところに行きます」っていうことを発信し続けると、やっぱり共感力が増していく。女子って、完全に共感力なんですよ。男性の横のつながりとはまた違って、女子ってみんなで手を取り合うようなところがあって。応援してくれたり、お客さんがすごくサポートしてくれようとしたり。どんどんチーム感が出てくるんですよ、お客さんと。SNSで「私、こういうのが好きです」って発信することによって、自分と感覚の近い人だけが来てくれる。
今って、一つの大きなブームみたいなことって絶対ないじゃないですか。細かい世界があって、その中でトレンドがあったり、売れていたりする。だから、そもそも大きい世界に投げかけたところで無理だし、ぼやけちゃう。私は、「私のいる小惑星でどういう風に生きるか」みたいな感じでやっているんです。
だから本当に、自分と共感して、自分とマッチする、そういう人が来てくれればいい。それ以外の人がわからなくてもいいかなって、正直思う。自分の好きなものさえあれば、もう他は知らなくてもいいや、みたいに思っちゃってるところはありますね。
内田:二人に共通して言えるのは、上手いのは前提なんだけど、髪型を商品にしている感じがしないですよね。ライフスタイルを商品にしているというか。だから極論、新規で来た人も、「この髪型がしたくて来る」というよりは、「この人のムードに触れたくて来ている」人のほうが多そう。
柳:それはあるかも。だんだんメンターみたいになってきません?
薫森:俺も、「メンター」って言われて。
内田:いろんな相談をされる感じ?
柳:そう。だから、髪の毛を切りに来るってだけじゃないですよね。気持ちも整えに来る、みたいな。
内田:そういう人のほうが、マンツーマンでやるっていうのには向いてますよね。