行き詰まったら、まず『諦める』。そして積み重ねた時間が、一人前の美容師をつくる。 LONESS 片山良平のびよう道

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代です。もちろんそれも良いですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があっても良いかもしれません。
「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修行時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。
今回は、LONESS(ローネス)代表の片山良平(かたやまりょうへい)さん。抜け感のある柔らかなスタイルからトレンドデザインまで、オールジャンルに対応できる高い技術力を武器に、多くのお客さまや美容師から支持を集めています。
イギリスへの単身渡航、見切り発車での上京、苦悩したスタイリスト時代、そして独立――。数々の経験を重ねるなかで片山さんがたどり着いた「一人前」の定義とは何だったのか。これまでの「びよう道」を振り返りながら、その答えを伺いました。
就職せず渡英して見つけたタフなメンタリティ

僕は地元の名古屋美容専門学校を卒業後、すぐには就職せず、イギリスへ渡りました。きっかけは、専門学校から「行ってみないか」と声をかけてもらったこと。当時は卒業後に東京で働くつもりだったので迷いもありましたが、「これもひとつのチャレンジだ」と考え、渡英を決意しました。
しかし、現地での生活は想像していたものとは少し違ったものに。ヴィダルサスーンのスクールに通わせてもらっていたものの、授業は週に1回。時間だけはたっぷりあるのに、お金はない。無料の英語講習に参加したり、街をぶらぶら観光したりして過ごしていました。友達もいなければ、もちろん英語も話せない。日本の友人に連絡をしても時差があり、みんな就職して忙しくしているので返事もなかなか返ってきません。周りがどんどん前に進んでいるように見える一方で、自分だけが取り残されているような感覚がありました。その頃は「日本に帰って働きたい」と本気で思いましたし、人生で初めてホームシックも経験しましたね。

とはいえ、どれだけ「帰りたい」と思っても、現実は変わりません。だから僕は、その状況や「日本に帰りたい」という気持ちを、一度「諦める」ことにしたんです。現状を受け入れた上で、「じゃあ、この時間をどう使うか」を考えました。そこで、公衆電話で電話帳を片手に、美容室へ片っ端から電話をかけ始めたんです。「こういう理由でイギリスに来ているので、無料でもいいから働かせてほしい」。拙い英語で必死に交渉して、受け入れてくれるサロンを探しました。ビザの関係で報酬を受け取ることはできなかったので、働くというよりは現場を体験させてもらうような形でしたが、1日数時間でも美容の仕事に触れられる環境をつくっていきました。
そうして行動を続けるうちに、人とのつながりも少しずつ広がっていきました。紹介を通じて、パリコレで活躍するヘアメイクの方や、日本の有名サロン出身の美容師の方々と出会う機会にも恵まれ、自分の知らなかった世界に触れることができたんです。気づけば、あれほど孤独だったイギリスでの生活が、とても充実したものに変わっていました。

この経験を通して僕が学んだのは、行き詰まったときこそ、まず「諦める」ことの大切さです。諦めるというと、一般的には少しネガティブに聞こえる言葉かもしれませんし、この場合の表現としても正しくないのかもしれません。でも僕にとっては、当時の状況を打破するために最もしっくりくる言葉でした。
変えられない現実に執着し続けるのではなく、一度受け入れ、「諦める」。そして、「なぜ今の状況になっているのか」、「ここから何ができるのか」を考え、行動に移していく。そうすることで道は拓けるのだと実感しました。自分の時間を価値あるものにできるかどうかは、自分次第。その考え方は、イギリスで過ごした日々のなかで得た、今でも大切にしている財産ですね。
