何者でもなかった僕たちは、クリエイションを通じて成長ができた nenenイッシキケンタ×THE STRAMA春宮雅之の「上手くて、かわいくて、響く表現の定義」−soucutsの庭Vol.7−
春宮さん徹底解剖

内田:なるほど。じゃあ8割は事前準備の段階で決めていくんだね。例えば衣装を決めるときって、モデルさんのどんなところを見ているの? 僕自身は、どちらかというとイッシキ派だと思っていて。言い方は難しいけど、どちらかというと自分がやりたいことが強くて、それにハマるモデルさんを選んだり、イメージに合わせてモデルさんをアジャストしていく感覚なんですよね。それって、いわゆる従来の業界的なクリエイションのつくり方だと思うんです。
でも春宮くんみたいなタイプは、どこから発想して、どうやって着地していくのかが純粋にわからなくて。例えば、モデルさんを見て、白い衣装を用意していたけど、「やっぱり黒だな」と途中で変わることもあるってことだよね?
春宮:そうですね……。(だいぶ考えて)そうですね……。
内田&イッシキ:(笑)
内田:さっき、モデルさんやアシスタントと話したり、その場のライブ感の中でピンとくるものをつくるって言っていたと思うんですけど、そこをもう少し深掘りしたいんですよね。モデルさんを生かしたり、似合わせたりすること自体は、僕らも美容師なので当然やっていると思うんです。ただ、春宮くんの場合は「まず自分がやりたいことがある」という感じではなさそうじゃないですか。前回ゲストの白神くんと細井くんも、「やりたいことはない。モデルさんがいるからデザインが生まれる。だから『好きなことをやってください』と言われても何も浮かばない」みたいな話をしていて。春宮くんも、それに近い感覚なのかなと思っていて。そういう人って、どこから発想して、どうやって着地していくのかが気になってる。せっかくなら、この機会に言語化してもらえたら、次のセミナーで使えるかもしれないし(笑)。何かあるんじゃない? どう?
春宮:うーん……。
内田:例えばさっきの話でいうと、白い衣装を用意したけど、「やっぱハマんないな」と思って、全然違うものに変えることもあるわけでしょ?
この投稿をInstagramで見る
DA pro FINAL 2025 JAPAN grand prix
春宮:ありますね。なんて言えばいいんだろう……。僕は撮影をするとき、その時々の自分の気持ちや状態を結構大事にしているんです。例えば、最近SNSでこんなものを見たな、とか、それこそ、このラジオを聴いたなとか。本当に些細なことなんですけど、毎日心情って少しずつ違うじゃないですか。そういう、その時の自分の感情を大事にしている感覚ですね。いわゆる“バイブス”みたいなものを結構重視していて。例えばパーマの撮影が決まったときに、「最近こういうパーマをよく見るな」と思ったり、「なんで自分はこのモデルさんを選んだんだろう」と考えたり。そういう細かな自分の感情の波をキャッチして、作品に落とし込んでいくことが多いです。

内田:最終的にはビジュアルとして何かを選択するわけじゃないですか。気持ちやバイブスを大事にするのはわかる。でも、それを形にするには、どこかで具体的な判断をしなきゃいけないですよね。例えばヘアでいうと、「今はボブに顔まわりレイヤーを入れて、こう動かすスタイルが多いな」と思ったとして、「じゃあ、それはやらないでおこう」という発想は理解できるんです。でも実際に撮影へ向けて準備する段階では、もっと構築的に考えないと選択肢が生まれないじゃないですか。衣装を決めたり、ヘアを決めたり、世界観を決めたり。それって結局、どこかでは明確に決めているということだと思うんですよね。そのプロセスが知りたい。今日は徹底的に解剖しよう(笑)。春宮徹底解剖!
イッシキ:気になりますよねえ。
内田:気になるよね! 俺とイッシキくんは、作りたいものが結構あるじゃないですか。ビジュアルが優先してて、こういう画を撮りたいっていうのがある。そうするともうゴールが見えてるから、わかりやすいじゃないですか。
イッシキ:春宮くんの話なんですけど、
内田:代弁してくれてる!(笑)
イッシキ:関わっていく中で、天才なのか、構築的なのかわかんなくなることがあって。感情とかの繊細な部分がすごくスタイルに反映されているなっていうのは、僕から見てもわかる。飲んでたりとかしていても、感じることがあって。「ここまでこういう風に思うんだ」とか、人よりも、感じ取るフィーリングが深い気がする。僕は、結構浅いので(笑)。何事も深く考えないので、春宮くんのそういうところが今、気になってますね。
内田:感情をビジュアルに起こすって、ある意味すごく曖昧なことじゃないですか。
でも最終的には作品として形にしているわけだから、どこかで感情や感覚を具体的な表現に落とし込んでいるはずなんですよね。それって、自分でも説明するのは難しい?
春宮:そうですね……。スバリと言葉にしにくいですね。
内田&イッシキ:(笑)
イッシキ:僕が言っていること、全然的を射てない可能性もありますけど(笑)。
春宮:(しばらく考え込む)

内田:イッシキはさ、クリエイションの出発点がコンプレックスにあるじゃないですか。周りには、好きなカルチャーや趣味を深掘りして、それを表現に落とし込んでいく人がたくさんいる。でもイッシキは、どちらかというとそういうタイプではない。だからこそ、「シンプルにかわいいと思ったものを、どれだけ精度高くビジュアルに落とし込めるか」というところに向き合ってきた人なんじゃないかなと思うんです。その分、とにかくビジュアルの力が強いんですよね。言い方が正しいかわからないけど、作品に意図はないというか。以前、「なんでこの作品をつくったんですか?」と聞かれて、「単純にかわいいと思ったからです」と答えていたことがあったじゃないですか。今も、その感覚は変わらない?
イッシキ:時と場合によりますね。お店として打ち出すコレクション撮影だったり、何かテーマをもらって自己表現をするときは、ある程度思いを込めてつくることもあります。ただ、僕は定期的に作品撮りをしているので、もっと感覚的につくることも多いです。例えば最近撮った作品で、植物がジャケットのように見えるビジュアルがあったんですけど、あれも店の近くにあるラコステのグリーンウォールを見て、「これかわいいな」と思ったのがきっかけで。「あ、じゃあこれを着たらかわいいんじゃない?」くらいの感覚でつくっていますね。
内田:完全に視覚から生まれるアイデアなんだ。だから、イッシキみたいなタイプはわかりやすいんですよね。最終的に表現するのはビジュアルだから、「これがかわいい」「これにインスパイアされた」というのがそのまま作品につながっている。超どストレートの球を投げてる感じなんですよね。一方で、春宮くんの場合は、感情だったり、その時に思ったことだったりを表現につなげている。それって解釈次第でいかようにでも取れるじゃないですか。でも、すごく上手だし、結果としていろんな仕事も来ている。ということは、第三者から見てもビジュアルとしてしっかり刺さるものができているってことだと思うんですよ。だから聞きたいんだけど――なぜなんですか?
春宮:確かに……。
内田:いいね(笑)。なんか今日は春宮棚卸し会みたいになってるな(笑)。
イッシキ:僕が「感情」って言葉を使ったことで、さらに難しくなっちゃった? 大丈夫?(笑)
内田:でもさ、豊田さん(STRAMAオーナー豊田さん)って、アートや歴史みたいな文脈をデザインに取り入れるイメージがあるんですよ。実際に本人から聞いたわけじゃないからわからないけど、そういうものから表現を学んでいるというか。春宮くんも影響を受けているのかなと思ったんだけど、あんまりそういう感じでもなさそうだよね? 例えば、写真集をものすごく見ているとか、コレクションからインスピレーションを受けているとか。
春宮:そこでもないですね……。なんか、今すごく自分自身が考えさせられています(笑)。でも、答えになるかわからないんですけど。作品をつくるときって、まず自分の中に感情の波があって、「いいな」と思うデザインだったり、「いいな」と思うビジュアルだったり、いろんな要素が浮かんでくるんです。それを一回、全部ノートに書き出すんですよ。思いつくワードを、とにかく並べていくというか。
内田:例えばどういうこと書くの?

春宮:例えば、メンズプレッピーのコンテストでグランプリをいただいて、大賞作品をつくったことがあったんですけど。あれは比較的自由度が高くて、何を表現してもよかったんです。それで、2025年のグランプリだったので、「2025」というところから考え始めて。思いつくワードをどんどん書き出していったんです。そうやって広げていった結果、最終的にたどり着いたのがミャクミャクでした。
内田:ミャクミャク!(笑)
春宮:2025年を象徴するものって何だろうと考えたときに、大阪万博があって。そこから大阪万博、ミャクミャク、赤、青……と連想を広げていきました。ミャクミャク自体にも、動脈や静脈といった意味合いがありますし、そういうクリエイティブな文脈も含めて膨らませていく感じですね。
内田:なるほど。最初に「2025」というキーワードがあって、そこから掘り下げていくんだ。じゃあ、感情だけでつくっているわけでもないんだね。
春宮:そうですね。逆に僕は、ビジュアルがポンッと浮かんでくるタイプではないので。小さな要素を積み重ねていって、最後に着地する感覚のほうが近いと思います。
内田:じゃあ、ビジュアルを収集しようと思って、Pinterestを見たり、蔦屋で洋書を探したり、みたいなことはしないの?
春宮:それもします。ただ、どちらかというとビジュアルそのものより、テーマ性のほうを大事にしているかもしれないですね。そう考えると、「最終的なビジュアルは絶対これだ」という状態からスタートすることは、これまであまりなかったかもしれないです。
シャッターは5分。イッシキさんの作品づくり

内田:言葉とかキーワードを先に作っていって、そこから広げていくんだ。イッシキもそういうのはある?
イッシキ:僕も結構ありますね。そもそも映画や音楽みたいなカルチャーを深く通ってきたタイプではないので、作品をつくるときは、基本的にテーマやコンセプトになる言葉が先にあります。そこからイメージを広げていくことが多いですね。今のミャクミャクの話じゃないですけど、例えば「赤」と「青」みたいなキーワードが出てきたら、そこから連想を広げていく感覚は近いかもしれないです。
内田:へぇ。俺の中では、イッシキってもっとビジュアル直結型のイメージがあったんだよね。例えば、「あ、俺もこの画像ストックしてたな」みたいなリファレンスを感じる作品をつくっていることもあるし。でも、それがすごくわかりやすいし、そこからの落とし込みやクオリティも高いから、「ビジュアルから入る人」という印象が強かった。
イッシキ:でも、最終的にはそこを使いますね。うちのコレクションのつくり方もそうなんですけど、例えば今回のテーマは「お母さん」だったんです。アシスタントの子がディレクションしていて、最初は「愛」をテーマにしようというところから始まったんですけど。
そこから、「お母さん」というキーワードが出てきて。ただ、直接的にお母さんが写っている写真ではなくて、もっと子宮やへその緒みたいなもののほうが面白いんじゃないか、という話になって。そうやって言葉を広げていった後に、一気に画像を探し始めるんですよ。そういうつくり方は多いかもしれないですね。
この投稿をInstagramで見る
nenen 8th collection
内田:なるほどね。じゃあPinterestなんかも使うけど、それは最終的なビジュアルを組み立てるための参考であって、その前段階にはキーワードがあるんだ。
イッシキ:そうですね。ただ、僕は春宮くんと違って、当日に変わることは一切ないです。撮影当日には、もう全部決まっている。シャッターもめちゃくちゃ早いですし(笑)。極端な話、5分くらいで終わることもあります。それまでに構図もイメージも全部固めておいて、その通りに撮ることが多いですね。
内田:そこに至るまでの準備には、かなり時間をかけるんだね。
イッシキ:かけますね。だから逆に、本番で微妙だったら終わりです(笑)。
内田:なるほど(笑)。じゃあ、「やっぱりこっちにしよう」みたいなことは基本的にないんだ。衣装も含めて、ある程度決め打ちで臨む?
イッシキ:そうですね。
内田:そこは春宮くんとは対照的だね。さっきのミャクミャクの作品も、何パターンか試しながらつくっていった感じなの?
春宮:そうですね。例えば、発泡スチロールを赤く塗って投げてみたり、赤い粉を降らせてみたり。いろいろ試しながらつくっていきました。
内田:それって当日思いついたの?
春宮:いや、思いついたものは全部持っていった、という感じですね。現場で試せるように、とりあえず全部準備しておくというか。
内田:なるほどね……。なんか、春宮はもう少し言語化したいね(笑)。今日って、二人のサロンのスタッフもいるし、うちのスタッフも聞いているじゃないですか。みんながここに来た理由って、おそらく最前線で活躍している二人が何を考えているのか知りたいからだと思うんですよ。何かしらのヒントを持ち帰りたいわけで。だから今日は、俺が代弁しながら徹底的に深掘りします(笑)。
そんな中で、改めてテーマに戻ると、もうひとつ聞きたいことがあって。二人とも圧倒的に髪が上手いんです。これは僕、声を大にして言いたい。本当に素晴らしいと思っています。今の若い世代って、自分の好きな世界観や表現を持っている人はたくさんいるじゃないですか。コンテストでもそうだし、SNSでもそう。でも、それってある意味では主観の話でもある。その表現に説得力を持たせるためには、最後はやっぱり美容師だから、ヘアのクオリティが必要になるんですよね。
そこで聞きたいのは、二人がどうやって他の美容師を唸らせるレベルの技術を身につけてきたのか。アシスタント時代から今に至るまで、どんな変遷があったのかを聞いてみたいです。ちなみに今、自分のヘア技術に対してはどんな感覚?「まあまあ自信あります」くらい?