何者でもなかった僕たちは、クリエイションを通じて成長ができた nenenイッシキケンタ×THE STRAMA春宮雅之の「上手くて、かわいくて、響く表現の定義」−soucutsの庭Vol.7−
28歳が分岐点

内田:ヘアが上手くなれるかどうかって、俺の中では28歳くらいが分岐点だと思っているんですよ。その頃に気づかないと、一生気づかないまま終わるというか。そういうこと、考えたことある?
イッシキ:考えたことはなかったですけど、言われてみると確かにそうかもしれないですね。28歳くらいの頃、「今、上手くならなきゃいけない」っていう感覚はあった気がします。
内田:じゃあ今みたいに手応えを感じるようになったとして、20代中盤くらいの頃はどうだったの?どんな勉強をしていた?何か「これで上手くなった」というチップスみたいなものはある?
イッシキ:僕がもともと働いていたサロンは、どちらかというとコンサバ系だったので、集客サイト用のスタイル撮影をひたすらやっていました。週に1回くらい撮影していて、その中で髪の動かし方だったり、何が正解で、何が不正解なのかを教えてもらいながら学んでいった感じですね。それと同時に、自分自身はシュールさだったり、少しハズシのある空気感が好きだったので、きれいなバランスをつくる美学と、そこに少し崩しを入れる感覚をどう両立させるかを考え始めたんです。だから、とにかくたくさん撮影していた時期でした。
内田:それは独学?
イッシキ:独学もありますし、磯田さん(siki代表/磯田基徳さん)と沢井さん(jurk代表/沢井卓也さん)のオンラインサロンにも入っていました。それがかなり大きかったですね。作品の添削もしてもらっていたので。たぶん僕、一番写真を提出していたんじゃないかな(笑)。もちろん、自分のサロンの代表にも教えてもらいつつ。振り返ると、その頃がちょうど27〜28歳くらいだったと思います。
内田:そこで一気にパワーアップした感覚があるんだ。同志というか、横のつながりもあって、みんなでレベルアップしていった感じなんだね。じゃあ、春宮くんはどうだった?あんまりつるむタイプじゃなさそうだけど(笑)。

春宮:あんまり……つるんでなかったかもしれないです(笑)。僕はまず、売上が一番わかりやすい結果だと思っていたので、最初はとにかく売上を上げたい、お客さまに評価されるヘアスタイルをつくりたいという気持ちが強かったんです。そのために上手くなろうとしていました。SNSは、その答え合わせの場でしたね。お客さまのスタイルだったり、リアルなヘアスタイルを撮影して投稿して、その反応を見る。そうやって検証を繰り返していました。そこから少しずつ雑誌の撮影にも呼んでいただけるようになって。撮影の場合僕にとっての答え合わせは、代表の豊田でした。作品を見せて、アドバイスをもらって、それを次に活かす。それをかなり繰り返していましたね。僕は豊田の作品に惚れてこのサロンに入ったので、まずはその人に認められることが一つの目標だったんです。だから20代中盤は、ずっとそこに向かってやっていました。
それで、28歳くらいの時に豊田から「上手いね」って、言われ始めたんです。そこから、「あ、もう少し自由にやっていいんだ」と思えるようになって。少しずつ、自分の中のクリエイション脳が動き始めた感覚があります。
内田:それまではサロンワーク寄りの撮影をたくさんしていたの?
春宮:サロンワーク寄りではあったんですけど、どこかモードな雰囲気だったり、品のある空気感は出したいと思っていました。だから、いわゆる普通のサロンスタイル撮影はあまりやらなかったですね。モデルさんの私服そのままで、髪だけつくって撮る、みたいなことはしなかった。何か一つエッセンスを加えたかったんです。衣装を用意したり、ヘアの動かし方を少し変えてみたり。そういうことは意識していました。
内田:今改めて話を聞いていて思うんだけど、「売れたい」という欲求がかなり強そうだよね。「まず売上がないと話にならない」みたいなことを言っていたじゃない? そのモチベーションは相当強かった?
春宮:かなり強かったです。
(一同笑)
実はめちゃくちゃハングリーな春宮さん

春宮:自分の中に基準があって。売上がないとダメでしょ、みたいな。他人に対してじゃなくて、自分自身に対してですけど。僕らってアーティストではなくて、デザイナーだと思うんですよ。だから何をやるにしても、まず売上があってこそだと勝手に思っていて。そこへの執着は強かったかもしれないですね。
内田:それってアシスタント時代から?デビューしたら絶対に売れてやるとか、先輩を追い越してやるとか。意外とそういう青い炎を持っているんだね(笑)。普段は淡々として見えるけど、実はかなり下剋上タイプというか。
イッシキ:話していると出てくるんですよね(笑)。
内田:今の話を聞いていても感じる。どちらかというと、クリエイションはそのための手段という感覚なのかな? 売上はある程度結果を出していて、次はクリエイションという領域を攻略したい、みたいな。
春宮:それはありますね。完璧な人間にはなれないと思うんですけど、自分の中ではずっと完璧を目指したい気持ちがあって。売上もそうですし、クリエイションもそう。ジャンルを問わず、「この人、何でもできるよね」と思われる存在になりたいんです。今までにいなかったような存在になりたいというか。僕がパーマを始めた頃も、ちょうどブリーチカラー全盛期だったので。みんなと同じことをやるより、自分だけの強みを持ちたいという気持ちが強かったですね。
内田:オンリーワンになりたいというか。あえて逆張りすることで、自分の存在感を出していくような感覚なんだね。
春宮:そうですね。その感覚は昔からずっとあります。
内田:やっぱりそういうタイプなんだよね。飄々として見えるけど、実はかなりガツガツしているというか(笑)。一番反骨心があるタイプかもしれない。
春宮:そうですね。
内田:なんか、どんどん出てくるな(笑)。春宮くんに関しては、DA優勝が一つの大きな突破口になった気がするんだよね。僕も歴代のDA優勝者をたくさん見てきたし、他のコンテストの優勝者も見てきたけど、春宮くんほどそこから一気にブレイクした人って、実はあまりいない。なんでなんだろうね。もちろん元々の実力もあったと思うんだけど。
コンテストって、優勝したからといって必ずしも次の仕事につながるわけじゃないじゃない? JHAもそうだし、どのコンテストでもそうだけど、優勝がピークになってしまうケースも少なくない。結局、もともとの実力がある人が、受賞をきっかけにさらに加速していくからブレイクするんだと思うんだよね。

イッシキ:僕、春宮くんが一気にいった理由って、なんとなくわかるんですよ。とにかく、やり続けるパワーがすごい。コンテストを獲ったあとって、意外と見なくなる人も多いじゃないですか。でも春宮くんは違った。SNSもそうですけど、受賞をゴールじゃなくてチャンスだと思って、そこからさらに加速していった印象があります。この前、渡辺(nenenスタイリスト)とそんな話をしたんですよ。年末に、「正月休みは休むか、それとも毎日スタイルを上げるか」みたいな話をしていて。僕らは、「正月も上げて、1月に勢いつけようか」みたいな感じだったんです。で、年が明けたら、春宮くんも投稿していた(笑)。その時に、「やっぱりやってるな」って。そういう地に足のついた積み重ねが強いんだと思います。
内田:それは意識してやっていたの?
春宮:ちょっとズル賢いかもしれないですけど(笑)。みんなが休んでいる時って、チャンスだなと思うんですよね。
内田:やっぱりそういうの持ってるんだ(笑)。
春宮:休め休め!って思ってました(笑)。その間に、俺はやるぞって。
内田:向上心というか、反骨精神がすごいよね(笑)。最近、パーマモリアゲヨウカイ(HEAVENS/NAOさん、nanuk佐野さん、DaB河原木さん、THE STRAMA春宮さんによる、パーマデザインを盛り上げるクリエイティブチーム)にあまり参加してないじゃないですか。理由を聞いたら、「売れる前に参加しすぎると、“パーマモリアゲヨウカイの春宮”になっちゃうのが自分の中でちょっと……」みたいな話をしていて。
春宮:他のお三方は、もともとしっかり名前のある方たちだったので、まず僕があの場に入れていただけたこと自体がありがたいなと思っていました。ただ、今振り返ると、当時の自分のスタイルを見ても「まだまだ下手だったな」と思うんです。もちろん加えていただいたことにはすごく感謝しています。でも、皆さんはそれぞれ個人として活躍されているので、僕もパーマモリアゲヨウカイの名前に乗っかるだけではダメだなという気持ちがありました。
内田:その成り上がり精神、すごくない?(笑) 一見シュッとして見えるけど、この世代の中でもかなりハングリーだよね。それが春宮くんの強さなのかもしれない。
春宮:僕、スタッフにもよく言うんですよ。自分が休みなく外部の仕事をしているときでも、「いやいや、内田さんはもっと忙しいから」って(笑)。
内田:(笑)。ワーカホリックというか、とにかく仕事をどんどん仕掛けていきたいタイプなんだね。表現もサロンワークも、数字も。全部のマスを埋めたいというか、異常なまでの執着心がある。でも、その中で2人に共通しているのは、「上手さ」って感覚だけでは手に入らないということなんですよ。情報もたくさんあるし、手も動かしている。でも、そこから一歩抜け出せる人と、そうじゃない人がいる。その突破口は、2人の場合はコンテストだったのかなとも思うんです。自分自身で、同世代と比べたときに、「ここだけは誰にも負けないくらいやっている」と思うことはありますか?
春宮:……昨日の自分に勝つこと、ですかね。
内田:(笑)。格言すぎじゃない!?
春宮:10年くらいずっとそれです。絶対に「昨日の自分には勝とう」と思ってやってきました。例えば昨日インスタを投稿していたなら、今日も投稿しないと昨日の自分に追いつけない。まずはそこをトントンにして、その上で今日は何を積み上げるかを考える。ずっとその繰り返しですね。