何者でもなかった僕たちは、クリエイションを通じて成長ができた nenenイッシキケンタ×THE STRAMA春宮雅之の「上手くて、かわいくて、響く表現の定義」−soucutsの庭Vol.7−

イッシキさんがナンバーワンを目指すようになった理由

 

 

内田:なるほどねえ…。イッシキくんはさ、いい意味で、結果どうこうに執着しないで、単純に作るとか表現が好き、みたいなことが出発点な気がするんですよ。そう言う意味では対極なのかな。それとも、若い時は結果にコミット型だった?

 

イッシキ:うーん。わかりやすい結果に対しての意識でいうと、僕はコンテストに出たのも、お店を作ってからが初めてだったんです。若い頃は、とにかく作ることが楽しかった。SNSに作品をあげて、それに対して反応をもらえることが原動力でした。何を目的に何をするのかってすごく大事だと思うんですけど、自分にとっては「うまくなりたい」とか、「かわいいって言われたい」という気持ちが一番大きかったんですよね。だから、賞レースで一番を獲ることに対して「獲らなきゃ」「獲りたい」と強く思うようになったのは、最近かもしれないです。

 

オンリーワンとナンバーワンってあるじゃないですか。振り返ると、僕は少しオンリーワンに逃げていた部分があったと思うんです。少し変わったデザインや面白い表現をして、それをある程度「いいね」と言ってもらえる。それだけでも充実感はあったし、満足もしていました。それに、何かを競う場で3位になったり、負けたりした時に、自分の中では「納得できる作品は作れたし、響く人には響いたから負けてない」と思う部分もあったんです。でも、美容師という仕事をしている以上、自分が作るヘアスタイルはもっと多くの人に届くべきなんじゃないかと思うようになりました。お金をいただいて仕事をしている以上、よりたくさんの人に響くものを作る責任もある。だから最近は、オンリーワンに逃げずに、ナンバーワンを獲りにいく覚悟も必要なんじゃないかと感じています。

 

内田:そこにシフトした時に、具体的に変えたことはある?

 

イッシキ:ヘアに対する向き合い方はかなり変わったと思います。冒頭でも「人を消す・消さない」という話がありましたけど、僕は作品を作る時に、「何を見せたいのか」をすごく大事にしているんです。その人自身を見せたいのか、それとも一枚の画として見せたいのか。その二つを切り分けて考えることが多くて、「今回は人を作る」「今回は画を作る」という感覚で制作しているんですよ。それで最近は、一度“画を作る”ことを少し減らして、“人を作る”ことのクオリティをもっと上げていこうと思うようになったんです。

 

お客さま向けのインスタグラムを新しく作ったのも、その流れですね。僕はもともとゼロから何かを生み出すことが好きで、自分のやりたいことが先にあって、それに合うモデルさんを探すような作り方をしていました。画を作るとなると、場合によっては顔を隠したり、その人らしさをあえて消したりすることもあります。でも、サロンワークのお客さまは違うんですよね。

お客さまを消すことはできないし、消すべきでもない。その人の骨格や髪質、キャラクターをどう活かして、その人にフィットするデザインを作るか。そこにサロンワークの面白さがあると思っています。お客さまの素材を「1」だとしたら、それを「10」や「100」にしていく。その発想は、ゼロイチの作品づくりとはまったく別の脳みそなんですよ。

だから今は、その部分をもっと深く研究していきたい。人を作ることの精度を高めることに、すごく興味がありますね。

 

特化型は正解?不正解?

 

 

内田:集客や売上の話になると、よく「まずは何かに特化した方がいい」と言われるじゃないですか。「これをやりたいなら、この人」という入り口を作るのが、一番早くお客さまに見つけてもらえる方法だと。でも、人を作るという考え方でいくと、その人にはパーマが似合うかもしれないし、ストレートかもしれない。カラーかもしれないし、その時の気分やライフスタイルも含めて提案していくことになる。そうなると、ある種オールマイティになっていきますよね。

 

一方で、若手には「まず選ばれないと始まらないじゃないか」とも言われる。だとすると、自分の武器をトレンドとして打ち出していく必要もあると思うんです。そのあたりはどう考えていますか?

 

イッシキ:見つけてもらうために特化するという考え方は、まあ確かに。今はそういう時代ですし、入り口としてインスタグラムで何かに特化して発信するのは、正しいやり方だと思います。ただ、美容師として目指すべき姿はそこじゃないとも思っていて。僕らは生涯顧客を目標にしていますし、リピート率をすごく大事にしています。そう考えると、武器は多い方がいいんですよね。お客さまのライフスタイルや成長に合わせて、こちらが持っている武器を使い分けられる。その蓄えは絶対に必要だと思っています。だから、教育の段階から、何か一つだけに特化するようなカリキュラムにはしないかなと。とはいえ、この時代に特化せずに集客するのは難しい。特化しないとなると、クオリティが必要になると思うんですが、そこはまだまだ高めていきたい部分ですし、簡単なことではないですけど。個人的なプレイヤーとしての理想を言うなら、特化はしてないけど「なんかこの人に任せたら、いい感じにしてくれそう」と思ってもらえる美容師になりたいですね。

 

内田:確かにイッシキくんって、パーマもやるし、デザインカラーもやるし、カットもやる。いわゆる特化型ではないですよね。

 

イッシキ:そうですね。お客さまが他の美容師さんの写真を持ってくる必要がない状態が理想なんです。いっそ写真がなくても、「お任せします」と言ってもらえて、その人に一番似合うものを提案できる関係性。それが理想ですね。

 

 

内田:寿司屋で言うと、「今日何がおすすめですか?」って聞いて、「これです」と出せる職人みたいな感じだね。

 

イッシキ:まさにそんなイメージです。もちろんカットの技術は磨き続けなきゃいけないんですけど、僕はそれ以上にカウンセリングが大事だと思っています。例えばモードなヘアの写真を持ってこられたお客さまがいたとして、でもよく見るとその人の服装には少しポップな要素があるな、とか。そういう細かな要素や好みを読み取って、鋭く深掘りしていくんです。武器が多いからこそ、どの提案を選ぶかの精度がすごく重要になると思うんですよね。そこが曖昧だと、結局ちぐはぐなカウンセリングになってしまうので、その精度はかなり意識して磨いていますね。

 

内田:nenenの若手スタッフは、比較的「特化型」の印象がありますよね。最初はそういう方向に導いているんですか?

 

イッシキ:いや、僕から「絶対これをやれ」と決めることはないですね。パーマが好きだからパーマを打ち出したいとか、それぞれやりたいことがあるので、まずは本人の方向性を確認するようにしています。売れるためには、お客さまから見て分かりやすい入り口は必要だし、そういう意味で、何か一つ武器を持つことは大事ですよね。

でも、将来的には「技術」ではなく「人」にお客さまがつく美容師になりたいと考えている子が多いと思います。

 

内田:今は技術を入り口にしているけど、最終的にはオールラウンダーを目指すべきだ、みたいな話はしているんですか?

 

イッシキ:というより、本人たちからそういう話が出てくることが多いですね。

 

内田:なるほどね。ちなみに春宮くんは、実際にパーマを武器にして売れたわけじゃないですか。それは最初から戦略的にやっていたんですか?今もインスタを見る限り、基本的にはパーマスタイルを打ち出している印象があります。それはもう、特化すると決めてやってきた感じなんですか?

 

 

春宮:うーん……。今、イッシキさんの話を聞きながら自分のことを考えていたんですけど、形としては特化なのかもしれないですね。でも、実は僕、「特化」っていう言葉はあまり好きじゃないんですよ。イッシキさんの話ですごく共感したのが、生涯顧客という考え方です。うちのサロンでもそこは絶対で、お客さまと人生を共にしていくことが美容師の根本だと思っています。僕がパーマを打ち出し始める前は、ちょうどブリーチ全盛期だったので、ブリーチもやっていましたし、カットも全ジャンルやっていました。つまり、ベースがある状態でパーマを武器にしたんです。SNSや作品ではパーマに絞って発信していますけど、実際のサロンワークでは本当にさまざまなお客さまを担当しています。ブリーチのお客さまは少なくなりましたが、メニューもジャンルも幅広いですし、年代もさまざまです。だから、「目の前のお客さまをずっと担当できる」という自信はあります。

ただ、一つの武器を持ったことで得られたものは本当に大きかったです。今の自分があるのも、その武器があったからだと思っています。なければここまで売上も上がらなかったと思いますし、こうして今、こういう場所でお話しできているのも、そのおかげです。だから若い世代には、まず何か一つ武器を持つことは大事だと伝えたいですね。

 

でも、その武器を磨いていく中で、「このお客さまをずっと担当できるだろうか」とか、「ブリーチをやりたいと言われた時に、自分は応えられるだろうか」とか、そういう不安や課題からは逃げちゃいけないとも思っています。一つの武器を持つことは大事。でも、その先には美容師としての幅を広げ続けることも必要なんじゃないかなと思います。

 

内田:いやー、なんか今までの中で一番真面目で熱い回なんだけど。リクエストQJさんもびっくりしてると思う(笑)。ひたすら熱くて真面目な2人で。いい回ですね。

 

(この後も、「かわいいの定義は、誰が決めているの?」「上手い人と売れる人の違いは?」など、リスナーからの質問に答えつつ、イッシキさんと春宮さんの知られざる一面が大暴露される場面も!続きはPodcastでぜひお楽しみください!)

 

下手くそは罪。そして、誰にでもチャンスはある。

 

 

内田:最後に、リスナーさんにメッセージをお願いします!

 

イッシキ:あの、さっきの余韻が…(笑)(イッシキさんは先ほど、nenenのスタッフに尖り散らかしていた時代の数々のエピソードを暴露されて、ちょっと呆然としています)。

 

やっぱり、美容師は上手くなるべきだし、下手くそは罪です(笑)。(店長でもオーナーでもない一スタイリスト時代に、朝礼で全スタッフを前にして『下手くそは罪、罪を犯しているということは犯罪者と一緒』という火力強めの発言をされていたみたいです)

今は昔以上に表現の幅が広がっていて、韓国、フェミニン、モード、地雷、ストリートなど、本当にさまざまなジャンルがあります。ただ僕は、それぞれのジャンルの中にも正解・不正解があると思っていて。その正解に辿り着くためにも技術は磨き続けるべきです。技術は向き合った分だけ上達するものですし、僕自身もまだまだ勉強中。そして、今でも成長できている実感がありますし、もっと上手くなりたいと思っています。そして何を表現したとしても、結局は髪に向き合うことに戻ってくるんですよね。僕自身も、表現を広げては髪に戻り、また広げては髪に戻る、ということを繰り返してきました。

だからこそ、カットラインや顔まわりの毛束の動きなど、一つひとつの技術にどれだけこだわれるかが大切だと思っています。それがお客さまに喜んでいただくきっかけにもなるし、美容師として活躍の幅を広げる土台にもなる。僕自身もそこを追求し続けたいですし、そんなふうに技術に向き合う美容師さんがもっと増えていったら嬉しいですね。

 

春宮:今回、クリエイションについてたくさんお話しさせていただいて、僕自身も改めて学ぶことがたくさんありました。その中で、イッシキさんと僕に共通していることがあるとすれば、クリエイションに成長させてもらってきたということ。そして、最初から特別な何かを持っていたわけではないということだと思います。何者でもなかった僕たちが、クリエイションに向き合い続けたことで成長することができて、今こうして皆さんの前でお話しさせていただいている。だからこそ、本当に誰にでもチャンスはあると思っています。

 

僕も30代になりましたが、これからは20代、30代の若い世代のクリエイションをもっと盛り上げていきたい。その気持ちはすごく強いです。もちろん上から何かを教えたいということではなくて、みんなで切磋琢磨しながら、一緒に成長していきたいという感覚です。今回、内田さんに選んでいただいてこうした機会をいただきましたが、何者でもなかった僕たちがクリエイションを通してここまで来られたように、みなさんにもチャンスがあるはずです。みんなで頑張りましょう。それで、いい美容業界になったらいいなって本気で思っています。

 

内田:ありがとうございました!

 

 

プロフィール

nenen

代表/イッシキ ケンタ

京都府出身。高津美容専門学校通信課程卒業。大阪府内の美容室で働いた後、上京して派遣美容師として勤務後、2013年La familiaに入社。サロンワークだけはなく、クリエイティブに力を入れ、フォトコンテストにも多数入賞。2022年に独立を果たし、原宿にnenenをオープン。ファッションや雰囲気にフィットするヘアデザインに加え、アパレルブランドの撮影ディレクションも手がけている。

Instagram:@isshiki_kenta

 

THE STRAMA/店長
春宮雅之
長野県出身。名古屋美容専門学校卒業後、東京・青山のSTRAMAに入社。サロンワークを軸に、撮影・外部クリエイションにも積極的に取り組み、STRAMAならではのモード感を伴ったパーマスタイルを確立する。国内外のヘアコンテストでも作品が評価され、デザイン力と再現性を兼ね備えた表現に定評がある。2023年よりTHE STRAMAの店長に就任。プレイヤーとしてだけでなく、教育やチームづくりにも注力し、サロン全体のデザイン力向上を牽引している。
Instagram:@harumiiiiya_

 

内田聡一郎(うちだそういちろう)

LECO代表
soucutsの庭ホスト
2003年より原宿のサロンでトップディレクターとしてサロンワークをはじめ、一般誌、業界誌、セミナー、ヘアショー、著名人のヘアメイク、商品開発など様々な分野で活躍。2018年 渋谷にLECOをオープン、2020年 セカンドブランドQUQUを、2025年には別ブランドとしてØØnをオープン。
現在渋谷1丁目に5店舗を展開。
代表として今後一層の活躍が期待されている。著書「自分の見つけ方」(2013年)、「内田流+αカット」(2017年)、「内田本」(2018年)を発売。また、シザーやシザーケースなどのオリジナルプロダクトも発売中。Instagram:@soucut

 

https://open.spotify.com/episode/1IONxArfyJrVGQKHh3bOsM?si=UlLWV334SyWdAdq3xj0BMQ

 

(文/富樫聡美  撮影/菊池麻美)

 

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